刑事的な対処が現実的であるか否かの判断に際しては、弁護士に相談をすることをお勧めする。警察が動く見込みの無いケースで刑事的な解決に期待することは無意味である。仮に起訴に至る可能性が低いとしても、捜査を開始する可能性があり得る事案なのであれば、告訴をする旨を企業や上司に伝えることが早期の民事的な解決を導く場合もある。

 他方で、告訴をするつもりも無いのに告訴をほのめかして不相当な金銭を企業又は上司から得る行為は、恐喝罪(刑法249条)を構成する場合がある。戦略と言葉遣いにさじ加減が必要である。

訴訟外での解決を目指す場合でも
証拠集めの重要性は変わらない

 民事的な責任を問う対象としては、当該上司と企業が考えられる。上司に対して損害賠償を請求することができるのは、道を歩いていて他人から暴行を受けた場合と同じく、不法行為(民法709条)に基づくことになる。

 企業に対する請求は、上司を雇用する使用者としての責任を問う方法(民法715条1項、使用者責任)と、企業が負う安全配慮義務(雇用契約に基づき従業員に安全に業務を行わせる義務)違反を問う方法(民法415条)がある。要件や立証責任が異なるが、ここでは割愛する。企業を訴える場合、使用者責任と安全配慮義務違反の両方の構成で損害賠償を請求する場合が一般的であろう。

 上司の責任を追及するためには、上司が暴力を行ったこと、これによって損害を被ったこと、さらに損害額を主張、立証しなければならない。暴力を行った事実について、上司が行為の存在自体を否定するケース、一定の行為はあったことは認めつつその内容を偽るケース、行為の内容を認めつつ違法な程度ではない旨を主張するケースがあり、訴訟に至る多くの事案で暴力の有無が争点となる。

 上司にとっても、暴力の存在を認めることは、会社内での自らの地位を危うくするため、証拠上明白でない限り認める訳にはいかないのであろう。とはいえ、訴訟に至る前、特に弁護士が代理人として交渉の前面に出る以前であれば、日常の会話やメールでのやりとりのなかで、暴行の存在を認める可能性はある。