年をとるにつれ、社会常識の判断がつかなくなった老人による犯罪や事故は今後、新聞の社会面やテレビのニュースで頻繁に報道されるようになるかもしれない。成年後見や市民後見人などの仕組みはあるが、急速な高齢化が進むなかで増え続ける問題をカバーできるのだろうか(参考記事はこちら)。想像してみてほしい。悪気はないのに、犯罪を犯してしまう老いた父や母。その時、家族は世間からどのような目で見られるのだろうか。父や母は刑務所で余生を過ごすのだろうか。もしかしたら、家族も知らぬうちに、認知症を発症しているのかもしれない――。これは誰にでも起こりうることだ。今回は年をとるにつれ、自分を律することができなくなり、しかし認知症とも診断されない老いた母の、窃盗癖に悩む家族の話だ。法律はそんな老人をどのように裁くのだろうか。(弁護士:大山滋郎 協力:弁護士ドットコム)
1年も経たずに再犯
穏やかな母の窃盗癖
「母がまたやっちゃいました……。窃盗で逮捕されたんです……」
電話を取ると、息子さんからだった。窃盗罪でAさん(息子さんの母)に執行猶予判決が出てから1年も経たないうちだった。
筆者は電話を切って、何とも言えない悲しい気持ちになった。職業柄、よほどのことがない限り混乱することはないが、「あれほど反省していたのにどうして」という、私自身も何がなんだかわからなくなってしまうほどのショックを受けた。
AさんとAさんのご家族のこの数年の心労は計り知れない。Aさんは70歳過ぎ。一見すると、どこにでもいるような、穏やかな老人だ。認知症を患っているようにも見えない。窃盗をしたということだが、Aさんのご家族はお金に困ることもなく、実際に預貯金も数百万円ある。
なぜ、そんなAさんが窃盗を繰り返すのか。初めて窃盗で逮捕され、事情を聞かれたAさんは、その理由をきまってこう繰り返してきた。
「将来が心配になって、お金を使うのがもったいない」