その声は室内に響く。飯田は、小さな声で「はい」と答える。確かにキャリアは浅く、要領は得ていない。時には叱られることも止むを得ないのかもしれない。

 夏野は細い目をさらに細くし、にらみつけるような表情になり、容赦しない。その場にクライアントがいようがお構いなし。あくまでスパルタ教育を押し通す。

 飯田の声が、さらに小さくなる。うつむいたままで、脅えたようにも見える。他の数人の社員が黙り込む。室内は静まり返る。

 室内には、白い壁のところどころにスイスの山奥と思われる写真を拡大したポスターが貼られている。社長が現地で撮影したものらしい。数十秒の間、重苦しい沈黙が続く。夏野は他の社員にも厳しく叱る。

「俺が(クライアントのところへ)向かう前に、資料を用意しないと意味がないだろう。資料をそろえるのは、お前の仕事だっただろう?」

「そんな小さな声で相手に話せば、逃げられる。いい加減な電話をするな!」

「同じミスを繰り返すな。まじめに仕事をするんだ!」

 このような調子で、数分ごとにしごきが続く。これらのいずれもが、実に正しい指摘である。しかも、言葉を発するタイミングが実にいい。夏野は、飯田がミスをするのを待っているかのように叱る。(①)

 しごきは、他の社員にも及ぶ。平均年齢20代半ばの4人を、30代半ばの夏野が徹底して押さえつけながら、「育成」をする。

「叱られても全体像が見えない!
理解できないことがものすごく多い」

 筆者は1年半ほど前から、この代理店を専門学校の講師として、いわば臨時の職員として、受講生を増やすためのプロモーションを依頼するために数回は訪ねた。その都度、夏野の厳しいしごきを目にする。クライアントであるはずの筆者や同行する専門学校の事務局員も、憂鬱な気分になる。目のやり場に困るのだ。