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2030年のビジネスモデル

一粒1000円のイチゴをつくる「データ農業」

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第16回】 2014年2月27日
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 そこで栽培されるイチゴやトマトは、温度、湿度、日照、水、風、二酸化炭素、養分などが全てITで制御されている。制御データには、この道35年のベテランいちご農家、橋元忠嗣さんの匠の暗黙知を組み込んだ。データ野球ならぬ「データ農業」が始動した。

 岩佐さんの凄いところは、産地を震災前の元に戻す復興ではなく、世界最高級の産地へと突き抜ける戦略をとったことだ。岩佐さんはこれを「創造的復興」と呼んでいる。

 山元町のイチゴ農家の担い手は65歳以上の高齢者がほとんどだったので、彼らが培ってきた技やノウハウをなんとかして次の時代に受け継いでいかなくてはならないが、人から人への暗黙知の伝達だけでは限界があるし、時間も足りない。

 同時に、従来のままの農業経営を引き継ぐだけでは高い付加価値を生み出せず、固定費への投資ができない。岩佐さんは単位面積あたりの収穫量を1.5倍にする数々の生産革新と、ここで採れるイチゴの単価を平均1.5倍にまで引き上げるプレミアムブランド戦略によって、従来比2.25倍の価値創出を実現した。

最高級ブランドの誕生を支えた
プロボノチーム

 ここで作られたイチゴは、「ミガキイチゴ」というブランドで売られ、新宿伊勢丹では、なんと一粒1000円の値がついた。最高級プレミアムブランドの誕生である。実はこのブランド戦略の成功の陰には、従来とはちょっと変わった仕組みがあった。

 GRAは農業生産法人とは別に、人づくりのためのNPOを組織化している。そのメンバーには東京の大企業に勤める人たちが多く、日頃はデザイン、PR、財務など様々な部門に属して働いている。岩佐さんは、彼らが持つプロフェッショナルな専門能力を、それぞれ5%の時間だけボランティアとして提供してもらう「プロボノ」という枠組みを用いた。このメンバーは登録ベースで1000名を超え、アクティブに活動している実働ベースでも常時100名くらいは存在するという。

一粒1000円の値がついた「ミガキイチゴ」(左)/職能の異なる様々なプロフェッショナルが、それぞれの5%の時間だけボランティアとしてプロジェクトに関わった(右)
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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

2030年のビジネスモデル

未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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