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2030年のビジネスモデル

一粒1000円のイチゴをつくる「データ農業」

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第16回】 2014年2月27日
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 彼らは東京の大企業に所属しつつも、何か自分も復興に関わりたいという潜在的なモチベーションを持っていた。復興NPOに自分の専門性を生かして関わることは、彼らにとっての想いの実現になる他、将来的なキャリアアップのための実績にもなる。また、そこには人と人との新しい出会いの楽しさもある。

 岩佐さんは、この眠っていた大企業内個人の潜在的な力を巧みに引き出したのである。特に、ブランドやマーケティングの分野で、こうしたプロの力を無償動員できたことはプロジェクトの成功にとって大きかったと語る。

 岩佐さんは、このプロボノ組織についてとても面白いことを言っていた。

 「一人の100%よりも、20人の5%のほうがいい。一人でマルチになんでもできる人はいないし、辞めてしまったら全て消えてなくなってしまう。プロボノの5%をつなぐことには実はモノ凄い価値がある」

 なるほど、たとえ5%の時間でも、職能の異なる様々なプロフェッショナルが本気で協力・協働することのイノベーションのパワーを私たちはまだ十分に知らない。GRAの成功要因の一つは、このプロボノ・パワーを引き出した求心力と編集力にあるのかもしれない。

日本の匠のノウハウを
ITを使ってインドで再現

 さらに驚くのは、同様の先端園芸施設を、インド(マハラシュトラ州)でも展開したことである。日本のイチゴ農家の匠のノウハウを、ITを用いてパッケージ化し、インドでもそのまま再現することによって、インドに美味しい果物の市場を新たに作り出す事業である。

 「塩水しか出ない山元町でもやれたんだ。インドでもやれるはずだ」。被災した山元町や、暑くて過酷な環境のインドでさえも、もし高品質な農産物の生産に成功することができたなら、「あらゆる地域で食べ物が栽培できるようになるんじゃないか」と岩佐さんはとてつもないことを言う。

 しかしインドの事情は一筋縄ではいかない。電力はしょっちゅう落ちる、水質は毎日変わる、道路は荒くて軟弱野菜を運ぶのには適さない、そもそもインドには美味しいフルーツに対するマーケット(認知)がまだ育っていない。苦労は絶えなかった。

 そこで岩佐さんはまず外資ホテルにターゲットを絞り、納品に成功、実績を作っていった。そして今、その成功をトリガーとして、急成長するインドの中間層に美味しいイチゴの味を直接伝えることにも挑戦中である。

 「震災後に立ち上がった会社が、インドに出て行って実績を作ったと証明することは、非常に大事だと思っている。我々の農業は世界で通用するという勇気をみんなが持って前に進んでいけたらいい」

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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

2030年のビジネスモデル

未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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