図書館司書全体の
“地盤沈下”が起きている

 利用者との協力関係を築くにあたって非常に重要なのは、図書館業務の中核をなすレファレンス(調査支援)サービスであろうと思われる。

「そうなんですけど、私たちスタッフ5人は全員、数学のバックグラウンドがないんです。だから、内容についての質問には答えられないんです」

 それでも、出来ることは少なくない。それに大学という場所には、毎年、新入生がやってくる。この数理科学研究科図書室も、毎年、理学部数学科の新3年生を迎える。

「『数学専門のデータベースで検索をして結果が出てきたらしいんだけど、結果の見方がわからない』とか、『必要な情報が何に掲載されているかは分かったんだけど、それが図書なのか雑誌なのか分からない』とか、そういう質問は毎年ありますね。それなら、私たちもある程度はわかりますし、答えられます」

 いくつもの学術データベースを使いこなすことは、研究の世界の入り口に立った学生が最初に直面するハードルの1つでもある。そのデータベースの提供・運用も、大学図書館の役割の1つである。もちろん各大学の図書館では、データベースの使いこなしに関する講習会を積極的に開催している。

「講習会情報は重要ですね。データベースのアップデートの後など、それまで使いこなしていた方も迷うくらいです。困っている方に対しては、メールで質問できるサービスが存在することをお知らせすることもあります」

 本来、この図書室には、数学のバックグラウンドを持った司書が常駐していてもよいほどかもしれない。そのような司書が、数学研究にまつわる悩みを抱えた利用者に対して積極的に寄り添うような支援を行えるような体制を整備したら、どうなるだろうか? もしかすると、教育や研究の営みの姿が大きく変わるかもしれない。でも、この10年間ほどで起こりつづけていることは、図書館司書という職種の専門性に対する軽視と、図書館司書全体の労働環境悪化である。大学図書館に限ったことではない。あなたの住む地域の公共図書館に、あなたのお子さんの通う学校の図書館に、現在、専任の司書はいるだろうか?