「たとえば、繁華街に設置されたカメラは警察と直接リンクしておらず、警視庁に設置された捜査支援室のメンバーは、現在でも事件発生後に現場周辺の防犯カメラに映像が残っていないか自分たちの手で捜しに行っている。結局は人海戦術に頼らざるを得ないのが現状だ。警察が所管するカメラはリンクしているはずだが、無数の商店や飲食店に設置されたカメラはリンクされておらず、事件後に捜査員が映像をもらいに行く」(板橋氏)

 人口80万のアテネや、40万足らずのソチとは大きく異なり、2020年大会は世界有数の大都市東京で開催される。板橋氏はテロの脅威が高いわけではないと前置きしたうえで、連日多くの人が手荷物検査なしで利用する鉄道はテロの標的になりやすいと指摘する。

 板橋氏は大会期間中に市民の意識を少し変えるだけで、テロや犯罪に対して大きな抑止効果が期待できると説明する。

「地下鉄サリン事件が発生した直後、電車に乗ると必ずと言っていいほど乗客は周囲を見回し、不審物がないかどうかを自主的に確認していた。衆人の目というのは実は非常に大きな抑止効果があり、五輪の大会期間中に市民が少し注意して不審物がないかをそれぞれで判断する意識づけが重要ではないだろうか。横浜で行われたAPECでは神奈川県警に缶バッジの重要性を説き、実際に警察関係者以外の協力団体の方々には缶バッジを胸につけてもらい、それを関係者が互いに見ることによって、防犯やテロに対する意識を高めてもらった」

2020年東京オリンピック選手村予定地の東京臨海部。周囲が海に囲まれていて、アクセスポイントが限られている 
Photo:DOL

 一方で五輪関連施設の多くが海に囲まれた湾岸エリアに集中する点を評価し、「地理的な理由からアクセスポイントが限られており、警備する側にとっては大きな利点となる」と語る。

東京五輪は警備業界に
特需をもたらすのか?

 テロ対策に直接携わることはなくても、大会運営には1万4000人の民間警備員の力も必要とされている。2020年大会は国内の警備業界に何らかの形で特需をもたらすのだろうか?

 1964年東京五輪が開催される2年前に日本初の警備保障会社として設立されたセコム(設立当初は日本警備保障株式会社)は業界第1位の売上高を誇り、現在はアジアを中心に19ヵ国で事業を展開しているが、飛躍のきっかけになったのは50年前に開催されたオリンピックであった。

 五輪開催まで1年をきった1963年暮れ、当時のオリンピック組織員委員会が警備業務を依頼。選手村の建設における警備業務が依頼内容であった。建設中の選手村は取り壊し前の駐留米兵向け住宅が約400戸も残っており、不法侵入者が後を絶たなかったため、セコムに警備の依頼が届いたのだ。