以上の黒田総裁の発言を考慮すると、追加緩和を行うのは消費税増税を行った後のタイミングで、かつ日銀が想定する潜在成長率を上回る成長が続き、デフレギャップが次第に縮小するという現在のシナリオが崩れたと判断した場合、ということになるのではないか。一方で日銀が現在描いているシナリオが崩れ、景気の腰折れが鮮明だという判断が早期になされるのであれば、追加緩和の決断は早いと考えられる。

 金融政策が実体経済に十分な効果を及ぼすまでには1年から1年半のタイムラグがあるため、追加緩和に個人消費や住宅投資の落ち込みをピンポイントで抑制する効果を期待するのは難しい。他方で予想インフレ率や株価・為替レートの悪化への対抗策としては意味がある。

 図9は1996年度と2013年度(2013年4~6月期と同7~9月期)の実質民間消費の変化を所得効果と資産効果の寄与に分解しているが、2013年度の民間消費の増加には円安や株高を背景とした資産効果が大きく影響している。5つの視点で考える消費税増税後の日本経済(上)で述べたように、消費税増税後の局面では実質所得の減少を通じて、所得効果はマイナスに転じる可能性がある。こうした中で消費の減少を食い止めるには、円高や株安といったショックが生じないようにすることが必要だ。

 そしてその場合には単に追加緩和策を講じるのみならず、人々の予想に働きかけるための新たな工夫が求められるのではないか。例えば昨年1月22日に公表した政府・日銀の共同声明に、日銀法改正を近い将来行う事を明記の上で、雇用の最大化を日銀の政策目標として新たに追加することや、日銀法改正の際に共同声明を政策協定(アコード)として位置づけ、日銀法に紐付けされた法的根拠をもつものに改訂するといった修正が考えられる。増税後の4月には展望レポートの公表も控えている。「量的・質的緩和策」で公表している2014年末以降のマネタリーベースの見通しや経済・物価情勢の展望を明確化することで、政策意図のさらなる浸透を図ることも必要だろう。