過去に発生した不良債権という「負の遺産」の処理に追われてきた新銀行東京。業績が回復基調をたどり、新たな都知事が誕生する中で、その存在意義があらためて問われている。
都民の資金を還元する、地域型トランザクションバンクを設立──。
石原慎太郎元東京都知事が、2期目の選挙公約で、「東京発の金融改革」を旗印に、そうした壮大な構想をぶち上げ、都民のための銀行を設立してから4月で10年を迎える。
足元の業績を見ると、5期連続の最終黒字を見込むなど、回復基調に変わりはない(図(1))。しかし、財務諸表からは、過去に発生した不良債権という「負の遺産」を完全には切り離すことができず、依然として耐え忍んでいる現状が垣間見える。
その苦悩が如実に表れているのが、取引先数の減少だ。
決算資料によると、2013年末時点の中小企業の取引先数は1873社で、前年同月と比べると207社も減った。
そもそも、1年間で取引先数が10%も減少するようなことは、他の銀行ではあり得ないことだが、新銀行東京にとっては、その急速な減少分こそが、過去の「スコアリング融資」によって築き上げてしまった負の遺産なのだ。
スコアリング融資とは、企業の損益計算書や貸借対照表といった財務諸表の数値を基に、その企業の信用リスクを機械的に点数化し、原則無担保・無保証の融資を判断する仕組み。労力がいる審査を大幅に簡素化できるというのが、最大のメリットだ。
その落とし穴にはまったのが、04年当時の新銀行東京だ。トヨタ自動車や旧長期信用銀行出身者を経営陣に迎え、スコアリング融資を柱とした「マスタープラン」という事業計画を策定したことが、同行の悲劇の始まりだった。