今春の消費増税直前の駆け込み需要で深刻なドライバー不足が社会問題となったが、それをきっかけに物流業界が長年抱えてきた構造問題が表面化してきている。これは日本の企業経営者の物流に対する戦略不足が背景にあるのではないか?物流業界の専門紙『カーゴニュース』の西村旦編集長と『ダイヤモンド・オンライン』の原英次郎論説委員が、物流業界の現状と日本企業の物流戦略のあり方について議論する。
「欲しいものが翌日、希望の時間に届く」のスゴさ
原 今や、PCやスマートフォン、タブレット端末から注文を入れると、欲しいものが翌日には希望の時間に届く。早ければ当日中に届く。こんなに便利なネット通販時代が来るなんて、10年前でさえ、まったく想像がつきませんでしたね。そもそも、10年前にはスマホやタブレットなんて存在しませんでしたから。宅配便にしても、届く時間帯まで細かく指定できるなんて、郵便小包しかなかった時代を知っている私としては、まさに"隔世の感"の一言に尽きます。
この便利な生活を陰で支えているのが物流ですよね。至れり尽くせりの恵まれた環境がすっかり当たり前になっているので、世間の人は物流の役割を特に意識したことはないでしょうね。よくよく考えてみれば、すごくハイクオリティなサービスを受けている。
西村 輸送の業務は一般の人々が寝静まった夜の時間帯に集中していますから、なかなか目に触れない。だから普通は意識し、できないでしょうね。
だけど、モノが作られて販売されれば、必ず物流を通じてそれが小売店の店頭や顧客のもとまで届けられることになるので、私たちの暮らしとは切っても切れない関係にあるわけです。
今回の対談の場所である「日本自動車ターミナル」の京浜トラックターミナル(東京・平和島)は、各地を深夜に出発したトラックが早朝にかけてここに押し寄せてきます。夜中は色とりどりのトラックだらけです。そして、ドライバーたちはこの施設内で仮眠や休憩、食事を済ませ、夜に再び各地をめざします。そうした日々の活動が物流を支えているのです。
原 こんなターミナルが存在していることすら、私を含めた世間の人たちは、おそらくまったく想像したことがないでしょうね。
今のようなネット通販全盛の時代でも、結局は「モノ」が手元に届いて決済が行われて初めて取引が完了します。その「モノ」の移動を担っているのが物流、それを最前線で支えているのは、結局のところ"人の手"ということですね。
物流のスタッフが昼夜を逆転させて働いて、確実にモノを運んでいるからこそ、ちゃんと指定の日時に届くわけだ。しかも、日本人は極めてワガママでハイレベルなサービスを求めています。世界的に見ても、時間帯まで指定できたり、大半の地域に翌日到着できたりする宅配便なんてないですよね?
西村 そうですね。日本の物流はグローバルで見てもすごく先進的で、高度です。時間指定、翌日配送がスタンダードというのは諸外国ではなかなか見られないですよ。決済方法も多様化していますしね。日本企業ならではの、かゆいところに手が届く、消費者のニーズに細かく応える形で発展してきた結果でしょう。