日本の企業経営には「物流戦略」が足りない

 消費者に対してだけではなく、例えば、在庫を極限まで減らすトヨタ自動車の「ジャストインタイム」生産方式が実現できるのは、精緻な物流サービスがあってこそなわけで、日本の企業活動の根幹を支えているんですよね。

原 英次郎(はら・えいじろう)ダイヤモンド・オンライン論説委員。1956年生まれ。1981年東洋経済新報社に入社。金融、証券、エレクトロニクスなどを担当。05年4月『週刊東洋経済』の編集長などを経て、06年同社を退社。11年10月からダイヤモンド・オンライン編集長を経て現職。

 東日本大震災のときに物流が寸断されて製造業の企業活動が停止してしまったのは記憶に新しいところですが、あのような状況に直面すると実感しますね。経営戦略上、物流は非常に重要なカギを握っている、と。

日本の物流は23兆円市場!

 ネット通販の便利さを実感したり、交通網の寸断でコンビニの商品があっという間に品薄になるのを目の当たりにして、極めて便利な今の生活を支えている物流という業種に、私は経済記者としてすごく興味を持っているんです。

 かつてに比べ、企業経営にとって物流戦略の重要度は増しているんじゃないかと。そもそも、日本の物流市場はどの程度の規模なんですか?

西村 まず、バブルがはじけた直後の1991年のピーク時と比べれば、現在の国内貨物輸送量は3分の2程度に縮小しています。とはいえ、国内では年間に49億トンものモノが運ばれていて、市場規模は23兆円程度に達しているんです。重量ベースで見れば、約9割がトラックによる輸送に集中し、トンキロ(重量×距離)ベースでも5割強に達しますよ。

 一般消費者にわかりやすいのはBtoCの宅配便ですよね。でもこれは物流業全体の中でいうとほんの一部。大半はBtoBで、こちらがメインの領域ですね。

 一口に物流産業といってもとても幅広い。物流産業はどんな「機能」から成り立っているんですか。

西村 基本的に、モノ作りや経済活動すべてに張り付いていますね。「調達」「受注」「輸送」「保管」「在庫管理」「配達」といった一連の流れをすべて請け負っています。

 構造的には、大手が保管・在庫管理から輸配送まで一連の流れを全て請け負っていて、その下に下請けが入るという形が一般的です。大手は輸送だけでなく倉庫を持ったり様々な事業を展開しながら「総合物流」を展開し、その下に入っているトラック業者が輸送だけ単機能で担当するような構造です。

 記者時代、私は長く金融業界を担当してきたんですが、銀行の主な機能は「預金」「貸出」「決済」。経営を合理化するためには、預金、貸出、決済のそれぞれの機能を分離して専門性を高めたほうがいいという考えが強い時代と、総合化したほうがいいという時代があって、それが繰り返されてきたんですが、物流の場合はどうですか。

西村 物流は銀行と違って、単機能だとコモディティ化して差別化しにくくなってしまうんです。だからトータルで請け負う中で工夫しながら利益を出していくというのがここ最近の大きな流れです。大手では、自前で倉庫や物流センターを持って荷主企業の在庫管理までして、サプライチェーンのコントロール機能を果たしているところもあります。

 また、出荷先からモノを運ぶ「動脈物流」に加えて、廃棄品や返品を回収する「静脈物流」も確立されてきました。

 一般的にはあまり知られていないと思いますが、倉庫内作業での付帯業務、例えば、パソコンのソフトをインストールしたり、アパレルだったら値札付けや検針作業などもやっているんですよ。モノが動くところに何かビジネスの種を見つけてサービスを始めているのが最近の物流業界の流れですね。

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