赤とんぼの歌って知ってる?
「ねえ赤とんぼの歌って知ってる?」
今年小学校6年生になる長男が、枕もとでふいに聞いた。学校から帰ってきたばかりらしい。朝方まで急ぎの原稿を書いていた僕は、寝ぼけながら訊きかえす。
「何だって」
「赤とんぼの歌、歌詞わかる? 最初の部分」
「……まだ眠い」
「お願い」
「夕焼け小焼けの赤とんぼ」
「その次」
「……追われてみたのはいつの日か」
「追われたってどういうこと?」
「追い払われたということだろ」
「誰が誰に追われたの?」
大きな欠伸をしてから僕は考え込む。そういえば確かにわからない。誰が誰に追われたのだろう。考えようにも次の歌詞がわからない。
「……赤とんぼがいるのだから季節は秋だよな」
「うん」
「ならば子供たちが稲刈りの邪魔をして、大人たちに追い払われたというところかな」
「ブー」
「何だよそれ」
「間違いです。正解は、「背中に負われて」の意味でした」僕は上体を起こす。顔を洗いたい。
「本当なのか」
「今日、国語の授業で先生が教えてくれた」
「……ずっと、「追われて」だと思っていた」