激しい攻防のなかで見えてきたのは、焦点が“牛”に絞られてきたことだった。米国産牛に対する現行の関税率は38.5%。これをどこまで下げれば米国は納得するのか。巷間言われているのは10%前後。「米国は1%台後半までしか妥協しない」という見立てもあるが、「牛肉関税が1%台なんて事態になれば安倍政権は吹っ飛ぶ」などという農林族議員の声もある。一昔前ならわからないでもないものの、今の農林族にそんな政治力があるとはとうてい思えないが、いずれにしてもTPPの先行きは今や視界ゼロだ。

 その渦中で官房長官の出演である。 官房長官が「安倍政権は、約束したことは着実に実行に移していく内閣だ」と述べた。

「昨年2月の訪米時に、我々は3つの約束をした。ハーグ条約(国際結婚が破綻した夫婦間の子どもの扱いを定めたもの)の批准、沖縄の普天間基地の辺野古移転、TPP。それを着実に実現してきた。そしていまTPPだ」

 それに対して私はこう切り返した。

「その発言は重く、TPPの合意が得られるという決意、自信か」

 官房長官の返事はこうだ。

「問題点はかなり整理されている」

 歯切れのいいものではなかったが、逆にそれは交渉が最終局面に来ていることを窺わせた。

税率だけに右往左往するのは不毛?
関税ゼロ時代のセーフガード

 そこで私は、国内の畜産農家を守る手立ては関税の税率だけではなく、20年~25年という超長期の時間軸を利用したり、一定の輸入量を越えたら政府が緊急輸入制限をかけるセーフガード(現在も利用されている)の見直しといった手立てによって、いくらでも畜産農家を守ることはできる、関税の税率だけに縛られた交渉は不毛だと、官房長官に伝えた。すると官房長官は にやりとして一言。

「おっしゃる通り」

 そのやり取りを見ていたあるエコノミストがメールを送ってくれた。

「菅さんの反応の良さから、TPPの落としどころが伝わってきた」