「ヨーロッパの豊かな自動車産業、羨ましい限りだった」

 自動車部品メーカーのある経営者は欧州の視察旅行で、同じ部品メーカーでありながら、日欧のサプライヤーが置かれた立場の違いに愕然とした。彼らの訪問先はメルセデスやマセラッティといった欧州の高級車メーカーだ。

「欧州車メーカーは部品の調達価格を固定してくれる。サプライヤーは努力してコストカットすれば、その分だけ自分の取り分が増える。毎年、コストダウンを迫られる日本のサプライヤーとは随分違うものだと驚きました」

 毎年ほぼ自動的に親会社からコストダウンを求められる日本の自動車部品メーカーからみれば、夢のような話だろう。親会社から与えられたコストダウンの目標達成にひたすら努力するのと、コストダウンした分だけ増収になるのとでは、雲泥の差だ。

親会社が過去最高益でも
値下げを強要される下請け企業

 2013年9月、日本の自動車メーカーは空前の好決算に沸いた。大手7社のうちマツダ、スズキ、三菱、富士重工の4社は史上最高利益となり、トヨタ、ホンダも過去最高の2008年に迫る勢いだった。トヨタの営業利益は連結で1兆2000億円。通期で2兆円と予想されている。それは多くの部品メーカーにとって朗報に違いない。しかし2008年のリーマンショック以降、親会社と下請けである部品メーカーとの関係は変質した。自動車メーカーを頂点とする巨大なピラミッドが一糸乱れぬ運命共同体だった時代は過去のものになりつつある。

 トヨタ系列のある部品メーカーは東海地区から遠く離れた地方に工場を建設した。ジャストインタイムの生産方式を前提とすれば、従来の生産拠点から何百キロも離れた土地に工場を構えるのはトヨタ流ではない。

「どうしてまた、そんな遠くに工場を作ったのか」

 意外な返事が返ってきた。