こんな経験はないだろうか?

 「明日の朝は大事な会議があるんだ」
 「だから眠るんだ。リラックスしなきゃ」
 「忘れるんだ、課長のことなんて」

 そう自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、目が冴えていく。忘れようと思うほど、上司のイヤミな言葉や表情がまざまざとよみがえる。思い出すだけでも腹立たしい。と同時に、これからのことが不安でたまらなくなる。しまいには、「裏では皆、オレのことをなんと言っているんだろう」「ひょっとすると、次の人事異動で左遷されるのでは」などと悩み始める――。

 「だいたい、眠るという行為は、頑張ればできるというものじゃないんです。ところが、真面目で頑張り屋の人ほど、眠ろう、リラックスしようと努力してしまう」。

 こう話すのは、筑波大学人間総合科学研究科の坂入洋右准教授だ。

 なぜ、「眠らなければ」と思うと目が冴えるのか? 原因は自律神経の仕組みにある。

 自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つの神経系で成り立っている。交感神経は、緊張時や興奮時に働く神経だ。交感神経が働きはじめると、アドレナリンが分泌され、心拍数や血圧が上昇する。

 反対に副交感神経はリラックス時に働く。心拍数や血圧も下がり、気持ちも穏やかになっていく。両者は、いわばスイッチの「ON」と「OFF」のような関係だ。

 ところが、「よし、眠るぞ」と思った瞬間、自律神経は興奮モードになり、「ON」のスイッチが入ってしまう。「うーん、眠れない。いや、寝なきゃ!」とここでまた「ON」。「おっ、今少しトロトロしたな。このまま眠ろう!」で、またまた「ON」。こうして、朝まで悶々とする羽目になるのだ。

 眠るときばかりではない。このように、何かというと「ON」のスイッチを入れてしまい、交感神経ばかり活発化させる人が最近増えているようだ。

 「努力すればいい学校、いい企業に入れる。そう信じて頑張ってきた人が多いですからね。そういう人は、社会人になっても、部下が思い通りにならなかったりすると、非常にストレスを感じる。部下の育成には、『注意を向けつつも黙って見守る技術』が重要ですが、それができないんです。なんとか部下をコントロールしようとしてもうまくいかず、結果的にイライラを募らせてしまうのです」