「坐禅」と「イチロー打法」の
意外な共通点

 「ON」と「OFF」のスイッチを操る天才がいる。イチローだ。

 バットを構える直前の彼が、毎回まったく同じ動作をするのは有名な話だ。バッターボックスに入ると、イチローはまずバットを立てる。続いて、ユニフォームの右袖を左手でつまみ上げる。

 一連の動作を、坂入氏は「精神をコントロールする儀式(ルーティン)のようなものでは」と指摘する。「体と心の働きは循環関係にあります。おそらく、イチローはこれらの動作をおこなうことで、精神を理想的な状態へ調整していくのではないでしょうか。プレッシャーをむりやり押さえつけようとすると、交感神経が働きすぎ、逆効果になってしまう。そうではなく、いつもの動作を淡々と行なうことで、緊張を精神的なパワーに転換することができるのです」

 同じ手法は座禅でも使われている。座禅の基本は「調身、調息、調心」。すなわち、考え事や感情にとらわれず、身を整え、次に息を整える。すると自ずと心が整う、という原理だ。「邪心を捨てよう」「雑念を捨てよう」と頑張ることはしない。次第に静まっていく心を見守っていればいい。

「頑張らない力」
を引き出す訓練法も

 うつの再発防止策、ストレス対策として注目される「マインドフルネス」は、この原理を応用した療法だ。別名「受動的注意」。いずれも聞き慣れない言葉だが、簡単に説明すると、「今の自分の状態に気づき、その現実をあるがままに見守る」ということになる。

 イライラや不安があっても、それを解消しようと焦らない。心臓がばくばく鳴っていても、「心臓が鳴っているな」と観察するだけ。「一刻も早くどうにかしなければ」と頑張ったら、状態はますます悪化してしまうからだ。

 マインドフルネス(受動的注意)では、自律訓練法というトレーニングによって、無意識な状態の自己観察力をつけていく。

 軽く目を閉じ、「腕が重たい」「脚が温かい」「呼吸が楽だ」など、公式にしたがっていくつかの言葉を心の中でつぶやく。体の部位や呼吸、気持ちなど、そのときのあるがままの状態を感じることが大切だ。とはいえ、無理してコントールしようと焦ると、逆効果になる。