やるしかない!
沢井の挨拶の番がきた。台の上に立った。
黒字浮上を目ざして前向きにあれこれ言うべきことを考えてはきたが、今、沢井の心を襲っている絶望感が、言葉を拘束した。
ともかくも、みなさんと協力して、何とか黒字会社になるように努めたい、と月並みなことを話して、沢井は台から下りた。
藤村も同じ思いなのか、沢井と同じようなことを、一語、一語、ゆっくりと嚙みしめるように話して台を下りた。
聞いている社員たちには何の反応も起こらない。
これが人間なのか。
直面した現実のあまりの厳しさに沢井は打ちのめされていた。
解散して事務所へ帰る途中、藤村が沢井の耳元でささやいた。
「これは、大変なことですね」
「うん、しかし、やるしかない」
沢井は自分の心に鞭打って答えた。(第4回につづく)
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人が燃え組織が燃える! マネジメントの記録
■ストーリー■
大企業で役員目前だった沢井は、ある日突然、出向を言い渡される。出向先は万年赤字の問題子会社。辞令にショックを受けつつも、1年以内に黒字化することを決意した沢井だが、状況は想像以上に悪かった。やる気のない社員、乱雑で老朽化の進む職場…。しかし、新しく人を雇ったり設備投資をするような予算はない。今ある人材、今ある設備で黒字化できるのか。(本書は、『黒字浮上! 最終指令』〈小社刊・1991年〉を改題・改訂したものです)
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