万年赤字会社はなぜ10カ月で生まれ変わったのか? 実話をもとにした迫真のストーリー 『黒字化せよ! 出向社長最後の勝負』の出版を記念して、プロローグと第1章を順次公開。岡田常務の案内で、社内を見てまわる沢井。さっそく疑問がわき上がる。(連載第1回目、第2回目、第3回目はこちら

赴任ーー組織を知る

 事務所で一服したあと、沢井と藤村は新しい作業服と安全帽を身につけて、渋谷前社長の案内で現場を巡回した。

 東西に走るメイン道路を東へ行くと、すぐ右手にもっとも大きい鋳造工場がある。
 その建物のなかに製造部の事務所があった。
 事務所は意外に広く、ズラリと並べられたデスクに、管理者やスタッフが大勢忙しそうに働いていた。

 そのほぼ中央のデスクから常務取締役・製造本部長の岡田弘行が急ぎ足で近づいてきた。

「製造部内は自分がご案内します」
「ああ、よろしく頼みます。とりあえずこの事務所のなかから説明したほうがわかりやすいと思うが……」
「ハイ、では製造工程にしたがって機能別にデスクを配置してありますので、前工程のほうから説明いたします」

 岡田常務は高専卒の電気技術者である。
 昔は大東金属の社員であったが、今は太宝工業のプロパーの役員になっている。