「景気底入れ」の呼び声もどこ吹く風か、中小企業にとっては依然厳しい状況が続いている。受注が減り、極限までコスト削減を行なって何とか生き延びている企業も多いが、はたしてこの先、中小企業に再生の道はあるのだろうか。

 これから紹介していくのは、社長の決断によって逆境を乗り越え、新しい市場を開拓した中小企業の事例である。税理士という立場で中小企業とともに歩んできた経験のなかで、「この会社はここで変わった」というターニングポイントに幾度となく居合わせることができた。

 中小企業がどのように経営を立て直していくか。いつ経営改革の断行に踏み切るべきか。企業再生の事例を見ていこう。

【CASE1】 企業間電子取引サービス提供 A社
・創  業  2001年3月
・社員数  9人
・売上推移 3414万円(2006年3月)→5581万円(2009年3月)
・事業概要 インターネットによる企業間電子取引システムの提供
・主要顧客 製造業大手

 企業間電子取引システムの提供を行なうA社(東京・新宿区)は、契約から受発注、納品までの企業間取引行程をインターネットを介して行なうことで自動化し、企業のコスト削減に大きく貢献するシステムの提供で業績を伸長させている。

 たとえば部品メーカーであれば、商品の情報をネット上に詳細に掲載し、リアルタイムで24時間・365日注文を受けることが可能だ。さらに、受注からその後の納品までの手続きも人手を介することなく、一切がシステム上で完結する。

 しかも、システムは企業ごとに100%オーダーメードで構築されており、顧客取引以外のバックヤード業務、つまり、生産管理、販売・購買管理、在庫管理、財務管理、人事管理などのシステムも一貫して提供している。

 これらの仕組みはすべてインターネット上で提供されているため、オーダーメードといえども廉価での販売が可能になったのだ。

 同社のA社創業社長・T氏は、51歳で大手家電メーカーの事業本部長の職を辞して単身渡米、54歳のときにレンセラー工科大学でMBAを取得した。サラリーマン時代に出向したグループ内の外資系企業の幹部社員のほとんどがMBAホルダーであり、彼らのビジネスのスケール、スピード、スピリッツが日本企業のそれと比べてはるかに優れていると肌で感じたことが、彼をMBA取得に駆り立てたきっかけだった。