「通帳に萬のマイナスが記載されるのを嫌がって使えないと考える方もいらっしゃるかと思いますが、マイナスというのはどなたかのプラスをつくるためのものです。色々な人に何かを頼んで新しいプラスをつくり出すことは大事なんです。どうか、マイナスについての考え方を転換してください」

 マイナスが貯まる人も地域にとって重要な存在なのだと指摘し、自分が誰かの役に立てるときやことがあったら、その力を分けてください、と語るのだった。確かに、メンバー個々人ごとに萬のプラスやマイナスの額が違っても、地域全体では萬のプラスマイナスはいつもゼロとなる。マイナスが増えても気にする必要はないというのである。

 もっとも、そう言われてもマイナスばかりが記録される通帳を見て、少しでも減らそうと考えるのが人情のようだ。「地域の誰かの役に立てることはないか」と動き出すという。

もはやカネだけでは幸福になれない
「心」を流通させるコミュニティづくり

 ヒト、モノ、カネ、情報が世界中を駆け巡る時代となって久しい。止まることのない経済のグローバル化が、我々の日常生活に様々な影響を及ぼしている。なかでも変貌著しいのが、カネの役割や存在である。

 カネはいつからかコントロール不能の「化け物」のような存在に変わり、マネーと呼ばれるようになった。あらゆるものを飲み込み、相手との関係性を消し去って濁流のように流れる。そして、特定の人の下に流れ込むのである。

 地球上には、瞬時に使い切れぬほどのカネを手に入れる人がいる一方、額に汗して働きながらカツカツの生活を強いられる人が一向に減らない。マネーは歪に動き回り、偏在する。そして、たくさんのマネーを持つことが必ずしも幸福につながるわけでもなくなっている。

 藤野の地域通貨は、地域の人間関係を豊かにし、困ったときに誰かが助けてくれるという安心感を生み出すものになっている。人と人をつなぎ、地域の中に安心と幸福を循環させ、それらをより豊潤に育て上げるものとなっているのである。

 もちろん、そこにはマネーゲームとは無縁の世界が広がっているのである。この日、meenaさんによる1時間ほどの説明に耳を傾けた参加者11世帯が、会員登録の手続きを行った。藤野地区に移住する人が増えているのは、なるほど、こういうお互い様の精神で互いに助け合う住民の地道な活動もあってのことかと、納得した次第である。

 ちなみにコミュニティづくりで成果を上げている他の地域通貨は、千葉県鴨川の「安房マネー」や長野県上田の「ま~ゆ」、東京都国分寺の「ぶんじ」などである。