きちんとした情報が開示されていない段階で、経済や経営の実態を適格に診断することは難しいが、あえて言おう。オバマ政権が先の健全性審査(ストレステスト)でやったことは、根拠の薄い楽観論を前面に押し出して、金融危機の実情を糊塗する行為だ。背景には、早期の全快を可能にする外科手術に耐える体力を、金融機関だけでなく、米政府も持ち合わせていない現実が存在するのではないだろうか。残されたシナリオは、日本が1990年代から経験した「失われた10年」の再来だ。成長と無縁の長い時代の入り口に、世界はさしかかったばかりということになる。
米政府(連邦準備制度理事会FRB、連邦通貨監督庁OCC、連邦預金公社FDIC)が注目のストレステストの結果を公表したのは、東部時間の7日(日本時間8日早朝)だった。対象になった19の大手金融機関のうち、資本不足と判断されたのは10社。その不足額は合計で746億ドルと予想外に少なく、世界は胸を撫で下ろした。
この発表で目立ったのは、用意周到な情報操作だった。数日前から、「懸念されたような国有化はない」「米政府の金融安定化資金が底をつく恐れもなくなった」といった楽観論を煽る報道が相次いだ。ニュースソースの「ほとんどすべてが当局」(米大手金融機関)で、都合よく世論を操作しようという意図は露骨だった。
準備も万端だった。結果の公表を受けて記者会見したガイトナー米財務長官は、声高に、資本調達が不可欠と判定された金融機関について、「(要求通りの資本調達の実現に)かなり自信がある」 と強気の見通しを語った。
金融機関に譲歩し
損失査定を甘くしたFRB
金融機関も素早く対応した。わずか1行で全体の半分近い339億ドルの資本不足があると名指しされたバンク・オブ・アメリカ(バンカメ)でさえ、間髪を置かずに、普通株で170億ドル、資産・事業の売却で100億ドル、その他の手法で70億ドルの資本を調達し、資本不足を予防すると表明した。
ニューヨーク株式市場は7日、夕方の正式な結果公表を待ちたいと見送り気分一色となった。が、翌8日は、発表内容に安堵が広がり、ダウ平均(工業株30種)は前日比で150ドルを超す大幅上昇を記録した。
しかし、発表直後のドタバタが過ぎ去ると、冷静な見方が台頭してきた。米紙ウォールストリートジャーナルが9日、「銀行はテストで譲歩を勝ち取った」と題する記事をプリント版だけでなく電子版にも掲載、当局が行った19の金融機関に対するストレステストは、あまりに銀行より過ぎて甘いのではないかと疑問を投げかけた。