ウクライナ問題にも顕著に表出
世界の構造変化をもたらした三要素

 世界が大きな変動期にあることは、このコラムでも度々述べてきた。その変化が一層明確となってきた。

 まず、相対的な国力のバランスの変化である。1990年に冷戦が終わった時点、先進民主主義国のGDPは世界の7割を超えていたが、それから30年が経過した2020年には、5割を下回ると想定されている。1990年時点で日本は世界のGDPの14%を占めていたが、それは2020年には6%に下降し、中国が15%のシェアを占めると予想されている。日中大逆転である。

 第二の大きな特色は、国際的な求心力を生むイデオロギーが消滅し、国内のナショナリズムが著しく台頭してきたことである。

 世界の国力のバランスの変化と、ナショナリズムの台頭は、世界を不安定化させる要素であるが、第三の特色であるグローバライゼーションの結果の経済相互関係の拡大は、世界の秩序を安定化させる効果を持っている。

 これからの世界はこの3つの要素のバランスによって、姿を変えていくのだろう。その例として、ウクライナの情勢を見てみよう。ウクライナの現状を変化させ、ロシアがクリミアの編入に走った背景には、ロシアの強いナショナリズムがある。

 ロシアは帝政時代やソ連時代を通じて、極めて強固な大国主義を標榜する国であったが、1991年のソ連邦崩壊後、国力の衰退と共に大国の座から滑り落ちた。

 ソ連邦を構成していた国々やソ連圏にあった東欧の諸国は、なだれを打ってEUやNATOに取り込まれていった。ロシアにとってみれば、これ以上西欧社会が旧ソ連の空間を侵食してくることは耐えられないということであろう。6割以上の人口がロシア人であるクリミアの編入に走った背景には、歴史に対する非常に強い思い、権威の回復に対するロシアの強い思いがあるのだろう。

 同時にロシア自身は、ウクライナ東部や南部への軍事的侵攻は、西側との関係でデッドラインを超えるという認識は有しているのだろう。