「燻製にハマったのは7年くらい前ですかね、たまたま見ていたテレビ番組で中華鍋を使って燻製を作る実験をしていたんです」

 それを見て、早速、試したくなった。最初はチーズだ。これが、思ったよりも簡単で、すぐにできたそう。煙はそれほど出なかったが、台所に染み付いた臭いがなかなか消えなかったため、次からは必ずベランダに出て燻製をするようになった。

「ベランダ燻製で注意したのは洗濯物ですね」

「ああ……臭いが付きますものね」

「だから、お隣さんが洗濯物を干している時はやらないようにしていました」

 どうしてもしたい時は、一人でキャンプ場に行った。平日のキャンプ場は空いているから、燻製にはもってこいなのである。

 という訳で、野外でサーモンを一匹分、燻製した時の写真も見せていただいた。

「台はどうするんですか?」

「キャンプ用の折りたたみ机を使います。その上に、ホームセンターで買ったステンレス製の棚を置く」

「よくある組み立て式の二段棚ですね」

「はい。上の棚にサーモンの切り身を並べて、下の棚で燻製チップを燃やす。その上から大きな段ボール箱をかぶせます」

「温度はどうやって測るんですか?」

「天ぷら用の温度計を使います」

 燻製の場合、いったん目標温度に達したら、あとは火を弱めて待つだけだ。ほかに、これといってできることはない。

「大物の場合はだいたい2~3時間くらい」

「その間、何をしているんですか?」

「ベンチに座って、ぼーっと見ています」

 たまに、キャンプ場の管理人が心配になって見に来ることはあるそう。

「やることと言えば、たまに温度計を確認するくらいで……ほかには何も……」

「本とかは読まない?」

「読まないですね。一応、目を離したスキに何があるかわからないので、火元を見ています」

 一度、かぶせた段ボールが強風で飛ばされ、ベンチの方まで飛んで来たことがあった。その時はさすがに慌てたが、燻製をしていて遭遇したハプニングと言えばそれくらいで、ほかにはこれといって思いつかないという。

 燻製ニストとはなんだか平和な趣味、いや職業である。