マーク・
ラスキーノ

バイス プレジデント 兼 ガートナー・フェロー

 5月の初め、私は自分用に新しいカメラを買いに行った。私は倹約家だから、こんな買い物をすることは滅多にない。10年に1度といったところだ。どんなカメラが欲しいか分かっていたから、下調べもした。だから自分が買ったカメラにはたいへん満足している。ところが今回のカメラ購入を通して、今日のデジタルビジネス戦略における、少なくとも4つの大きな課題が浮き彫りになった。

(1) カメラ専門店の終焉

 私は古いタイプの人間だ。したがってカメラ専門店で、カメラに詳しい店員と直に話したかった。私にとって、それが楽しい買い物体験の1つなのだ。私が見つけた、あるカメラ専門店のサービスは素晴らしかった。しかし当然ながら、もはやカメラ専門店の数は減っている――ロンドンでさえもだ。2013年には、イギリスで最後の大手カメラチェーンが187店舗を閉店した(その後、起業家らのグループがブランド名を買い取った後、少数の新店舗をオープンしたが)。

 いくつかの製品カテゴリーにおいて、eコマースは実店舗の大部分に取って代わるほどの影響力を及ぼしており、電子機器や白物家電の分野では最も顕著に現れている。これは悪いニュースとはいえない。今年、株式を新規公開(IPO)したAO.com(家電製品のオンラインショップ)の時価総額が13億ポンド(約2230億円)に達した。これは、まさにeコマース、つまりeビジネスがもたらす、創造的破壊効果だ。

 しかし、eビジネスはデジタルビジネスとは違う。混同しないでほしい。小売業界を崩壊させるほどの力を持つeコマースの影響力は、今に始まったことではなく、15年以上前から発揮されていた。ガートナーが定義するデジタルビジネスとは、「デジタルの世界と物理的な世界の境界を曖昧にすることで作り出される、新たなビジネスデザイン」。その物理的側面は、製品がモノのインターネットの一部となり、デジタル化される中でおのずと現れるのだ。

(2) デジタル製品のさらなるデジタル化

 私の古いカメラはデジタルカメラだった。だからある意味で私は、今回の買い物によってアナログ製品からデジタル製品の世界に移行したわけではなかった――つまり購入前から、すでにデジタル製品の世界に移行していたのだ。前から持っていたカメラは一眼レフで、フィルム式ではなく、デジタルセンサーが付いていた。ところが写真の構図を決めるには、直接レンズ越しに被写体を見るという、古いアナログなやり方をしなければならなかった。古い手法といえば、カメラにはミラーがあり、シャッターが開く直前まで、レンズを覗いて被写体を見ることができた。シャッターが開くとミラーは自動的に跳ね上がり、レンズから入った光がセンサーもしくはフィルムに届く。

 私が買った新しいカメラは、これらの工程がすべてデジタル化されている。ファインダーのアイピースには高解像度の小さなスクリーンがあり、センサーがとらえた映像が常にスクリーンに送出される。私は以前の一眼レフカメラを使う時と同じように写真の構図を決めるが、新しいカメラの中にはミラーがない一眼カメラでは当たり前のマニュアルモードや交換レンズのオプションが依然として備わっているにもかかわらず、結果的に新しいカメラは前よりも小型化・軽量化されているのだ。