「週刊ダイヤモンド」5月17日号の第2特集では、世界最大のフォトストック企業にして、“写真界のGoogle”と称されるゲッティイメージズのビジネスに迫った。ここでは本誌に掲載できなかった詳細エピソードも交え、同特集の「番外編」をお届けする。
「一度その魅力にとりつかれたら、富士山だけに、まさに“不治”の病です」
アパレル関係の仕事を長らくしていた関根元治さん(58歳)は7年前、富士山の撮影に病みつきになってしまい、ついに夫婦で山梨県に移住することを決めた。
まだ誰も撮影したことのない、妖しくも、美しい富士山の姿をレンズに納めたい──。
24時間365日、そのことだけを考えている関根さんは、プロの風景フォトグラファーですら絶句するような生活を送っている。
「まず最初に追い掛けたのは、月ですね。月と富士山をとにかく撮りまくった」
山岳・天体シミュレーションソフト「天体山望」を使えば、どの場所から撮影すれば、月と富士山が美しいバランスで出現するかをすべて計算してくれる。これを地図ソフトとリンクして、撮影スポットを記録していく。
「まあソフトを使うのは邪道という人もいますが、気にしません。3カ月で個展が開ける分だけの写真が集まりましたよ」
情報交換をしているカメラマンたちも筋金入りだ。例えば「ダイヤモンド」と呼ばれる、富士山の頂上に太陽光が載っているような構図ばかりを狙っている知人もいる。山の稜線から複雑に漏れ出る光を写した「ティアラ」などは難易度が高い。
「私は富士山の東側、知人は富士山の西側に住んでいますから。いつでも電話でやりとりしているんですよ」
そんなネットワークを使って撮影したのが、神秘的なこの1枚だ(写真下)。
知人からの連絡を受けて、クルマで現場に急行。富士山頂の気流の影響で、山頂に出現する「傘雲」と、その風下の「吊るし雲」を捉えた。
「写真の売上げは月10万円になることもあれば、ゼロの時もあります」(関根さん)
収入面からみればプロとは言い切れないが、プロ顔負けのクオリティの写真が、続々と生まれてきている時代。こうした写真がインターネット上に流通すれば、それは十分に商品になるのだ。
実際、この1枚は世界最大のストックフォトであるゲッティイメージズが日本国内のコンテンツを集めるため、昨年夏に開いたフォトコンテストで3位入賞となった作品だ。