しかし、中露の関係強化を日本が過度に恐れることはない。この連載で主張してきたことだが、ロシアは極東地域で中国と完全に組むことを望んでいないからだ。むしろロシアは、中国の人海戦術的な進出で、シベリアを実効支配されることを恐れている(前連載第18回を参照のこと)。ロシアは、日本の極東開発への協力をなによりも望んでいるのだ。

 ロシアは今回、「相当な覚悟」を持って、極東地域における中国との関係強化に踏み込んだのではないだろうか。これまでロシアは、何度も何度も極東開発に日本を引っ張り出そうとしてきたが、日本は「北方領土問題」を盾に、積極的な参加を拒んできた。しかし、「欧州のリスク」も顕在化した今回、ロシアは中国との関係強化という大変なリスクを犯してでも、なにがなんでも日本を極東開発に参加させたいのではないだろうか。

 ロシアが日本との極東地域開発での関係強化を切望している証拠は、日本・サハリン間の天然ガス・パイプライン建設プロジェクトの再浮上(参考記事)だろう。本連載では、天然ガス・パイプラインの敷設が、高い経済成長をもたらす可能性があると主張した(第52回を参照のこと)。現在の日本では他に類を見ない大規模な全国的公共事業であり、さまざまな産業に莫大な利益をもたらし、劇的な雇用拡大につながる。パイプライン完成後は、天然ガスの高い輸送コストが下がり、企業経営と家計に余裕をもたらし、消費の拡大につながる。なにより、パイプラインの分岐による全国の工場での自家発電と売電により、「電力会社の独占体制」という岩盤規制を崩す、「究極の成長戦略」なのである。

 安倍晋三政権は、中露関係強化という目先の現象に惑わされることなく、ロシアの本音を理解し、戦略性を持ってロシアとの交渉に臨むべきだろう。もちろん、その際には、政権発足後避け続けてきた、「八方美人的な対応」を改め、電力業界という既得権者と徹底的に戦う強い指導力を示さなければならない。

日本が極東地域開発に協力できることは
エネルギーだけではない

 最後に、サハリン国立大学と立命館大学の協定の話に戻したい。立命館大学の政策科学部での具体的な取り組みとしては、今年9月にサハリン州でのフィールドワークを企画している。この連載で紹介してきた2回生の「研究入門フォーラム」というプログラム(第19回などを参照のこと)や、3・4回生のいくつかのゼミの合同で行う予定である。

 他の研究グループがオーソドックスに「エネルギー問題と国際政治」をテーマとする中で、上久保ゼミでは「エネルギーと社会保障」をテーマに掲げている。これは、サハリン州が天然ガス輸出で稼いだ税収をどのように再配分するか、ということを考えるということである。