昨年12月26日、安倍晋三首相が靖国神社に参拝した。2006年8月15日の小泉純一郎首相(当時)以来7年ぶりの現役首相の参拝であった。第一次安倍政権時から、首相は外交問題化している靖国参拝について、自身の参拝について明言しない「曖昧戦術」を取り続けてきた。だが一方で、首相は第一次政権時に参拝を見送ったことを「痛恨の極みだ」と発言してきた。靖国参拝を首相は選挙公約にしており、今回それを果たしたことになる。
安倍首相の靖国参拝に、中国・韓国は激しく反発した。中国は、「中国の指導者は(安倍首相に)会うことはない」と、首脳会談の拒否を明言した。また、韓国は、2月に予定されていた防衛・情報活動での協力に関する協議に参加しないと発表した。朴槿恵大統領は「新年は、過去の傷をえぐることで2国間の信頼関係を台無しにし、国民感情を害するような行為がないことを願う」と発言している。
ある意味、中韓からの批判は毎度のことであり、「想定の範囲内」だろう。しかし、今回は駐日米国大使館も「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに米国政府は失望している」との声明を出した。同盟国・日本に米国が「失望」を明確に示すのは極めて異例のことだといえる。
海外の厳しい反応を受けて、国内メディアは一斉に安倍首相を批判した。安倍首相の靖国参拝は、米中韓との関係悪化による日本の「外交的な孤立」を招くだけではない。昨年11月に、東シナ海の空域に防空識別圏を一方的に設定するなど軍事的拡大を推進する中国を、更に刺激しかねない。中国は、尖閣諸島周辺での挑発的な行動を続けており、不測の事態が起きる危険性が高まってしまった。しかも、首相は「痛恨の極み」という個人的な政治信条を、近隣諸国と良好な関係を築く「国益」よりも優先して参拝した。なんのビジョンも戦略性もない行動だ。これが、首相の靖国参拝に対するさまざまな批判の最大公約数だろう。
しかし、安倍首相の靖国参拝には、首相なりの戦略があるのかもしれない。首相は、近隣諸国と良好な関係を築く気がない。むしろ「揉めたい」と考えているのではないか。首相は、昨年秋の臨時国会で、成長戦略という「やるべき政策」ではなく、特定秘密法、日本版NSC法という「やりたい政策」の成立を推進した。次に目指すのは、軍事予算の拡大、集団的自衛権の解釈変更、憲法9条改正など安全保障政策の転換だろう。それには、近隣諸国との関係が悪化したほうが、実は好都合である。国民が、安全保障政策の推進を認めざるを得なくなるからだ。