必ずしもマイナスに考える必要はない
ソニーから離れるVAIO株式会社の行方
今年2月、ソニーの平井一夫社長は同社のパソコン部門を、投資ファンドである日本産業パートナーズ(JIP)に売却すると発表した。それからすでに数ヵ月の時間が過ぎた。その間、PC分野の開発・製造・販売などの事業全体をJIPが設立する新会社・VAIO株式会社に移管する手続きが進んだ。
そして7月、VAIO株式会社が発足し、ソニーからPC製造部門が完全に離れることとなった。ソニーが育てたPCの有力ブランドが、今後親元から離れ独自の道を歩むことになる。それは、同部門の関係者だけではなく、多くのユーザーにとっても一時代の終焉を意味する。
確かにPC製造ビジネスは、かなり厳しい状況に追い込まれている。台湾や中国など新興国企業の台頭によって、シェアや採算がジリ貧状態だからだ。かつてPC部門の巨人であったIBMも、すでにブランドを中国のレノボに売却している。
ソニーにとって、1980年代以降、ウォークマンで世界市場を席巻した栄光の時代は過ぎ去り、弱電系の電機機器では苦戦が続いている。現在では、ソニー生命やソニー損保、さらにはソニー銀行といった金融事業から上がる収益が、全体の大勢を占める状況になっている。
特に収益性の低いテレビとPCの事業に関しては、売却や分社化などが検討されていたようだ。その結果、黒字化の目途がつきつつあるテレビ事業は100%子会社に移管する一方、さらに厳しいPC部門のついては売却せざるを得ないと判断した。
今回のPC部門の売却は、必ずしもマイナス思考で考える必要はないだろう。モノづくりの強みを失いつつあったソニーのPC部門が組織を離れ、新しいカルチャーをつくれば技術的な革新が起きることも考えられる。今回のソニーの例は、そうした“実験”の機会と考えるべきかもしれない。“実験”が成功することに期待したい。