NHKキャスター歴17年。NHK在職時代に大学院で心理学を学び、現在は大学の教員をしつつ、スピーチコンサルタントとして、政治家、経営者、ビジネスパーソン、学生などに「信頼を勝ち取るスキル」を伝授している矢野香氏。このたび『【NHK式+心理学】一分で一生の信頼を勝ち取る法―NHK式7つのルール』 を発売したばかりの矢野香氏に、89年受け継がれてきた「NHKの話し方」について語ってもらった。
あなたの信頼は、たった1分で失われる
【著者オフィシャルサイト】 http://www.authenty.co.jp
「1分で自己紹介して」
突然そう言われたら、あなたはどんな自己紹介をしますか?
先日、ある業界の大手企業に勤める29歳の営業マンM君からこんな話を聞きました。
先輩と一緒に大切な取引先へ挨拶に行ったときのことです。
「とりあえず、1分で自己紹介してよ」
40代後半に見える男性経営者は、名刺交換が終わるとそう言って、ジッと鋭い目をこちらに向けました。
「こいつは、つき合う価値がある人間かどうか」
自分が経営者に「値踏み」されているのがわかりました。
M君は、営業職だけあって、もともと初対面の人でも緊張することはほとんどありません。コミュニケーションは得意なほうだ、と自負しています。
この日も、名刺交換は余裕を持って笑顔でこなしました。
それなのに、「1分で」と時間制限されたとたん、自分の価値を相手にどう伝えていいのか、わからなくなってしまったそうです。
そこからは何をどう話したのか、M君自身も正確には覚えていません。
卒業した名門私立大学の名前を出したり、入社後これまで担当してきた仕事の話をしたり、履歴書に書くような表面的な話をダラダラとしたことは覚えています。
話しながら途中でチラリと経営者の顔を見ると、まったく表情が変わっていません。自分の自己紹介に興味を持っていないその様子に、さらに焦りを感じました。大きな失敗をやらかしたこと、大きなチャンスを台無しにしたことは明白でした。
「たった1分ですよ!1分で僕の何がわかるっていうんですか!」
帰り道、M君は同行していた先輩社員に泣きつきました。
1分は「たった1分」ではありません。
「1分も」あれば、すでに勝負は決まっています。
「1分も」あれば、人は簡単に嫌われます。
「1分も」あれば、それまで会社や先輩たちが長年培ってきた信頼も失われます。
1分間にM君は、何をやらかして信頼を失ってしまったのか?
心理学で読み解くと、すべてわかります。
もしM君が「NHK式+心理学」を知っていたなら……。
1分はたった1分ではない。
他人は1分であなたを評価します。
本書で公開する「NHK式+心理学」は、信頼を勝ち取るために私が放送現場で行ってきた秘策です。
あなたの信頼は、たった1分で失われる危険があるからこそ、大事な1分のために「NHK式+心理学」を使っていただきたいのです。