実践した体験から学び、磨きかけよう

 これまで、コーチングアップのスキルや、実践に活かせるケーススタディを紹介してきましたが、これは学習の第一歩です。また、コーチングアップには100点満点があるわけでもありません。

 さまざまな上司がいますし、相手や状況に応じて、かかわり方も大きく変わってきます。そのため、今の段階で満足するのではなく、常に上を目指し、自分のコーチングアップ能力を高めるという意識を持って学び続けることが必要といえます。また、そうした意識を持って臨むことで、今度は自分が上司になったときに、上司としてレベルアップできるように思います。上司になってからもコーチングの技を磨こうと思い続けている人が、良い上司であり続け、さらに良い上司になっていくと私は信じています。

 実践した体験から学ぶうえで、参考になる方法をひとつ紹介しましょう。それは、記録をとるということです。こういうふうにやってうまくいった、こういうふうにやってうまくいかなかった、ということを記録にとってみると、自分にとってどの球を投げるのが一番うまく機能するかというのがよくわかります。

 印象だけに頼ると、肝心なことが印象に残らず、例外的なことだけが強いイメージとして残ってしまう場合があります。しかし、データにとってみると、正確な全体像を冷静につかみやすくなります。

 これは野球の投手を例にとって説明するとわかりやすいかもしれません。たとえば、ストレートボールを投げて、打者にホームランを打たれたとしましょう。投げた球がたまたまストレートだったわけですが、投手は「この打者にはストレートが通用しない」と思いがちです。しかしデータを調べると、実際にはストレートのほうがバッターの打率は低かったということもあります。

 つまり、特異な例に心を奪われず、全体をしっかりと把握するためにも、記録をとって、データをまとめておくことが大切なのです。

上司とかかわることを避けると
ますます上司と近づけなくなる

 どんなにコミュニケーション能力の高い人であっても、相性が合わないと感じたり、うまくコミュニケーションできないと思ったりしてしまう相手は必ずいるものです。それは相手が上司という立場にある人であればなおさらです。初対面の印象が悪かったり、1度、2度接したときに叱られたりすると、苦手意識が生まれ、コミュニケーションをとることを避けたくなってしまいます。

 出会って最初の頃の印象というのは、人間関係を築くうえで、とても重要な要素であることはたしかです。しかし、心にとめておかなければならないのは、人間の信頼関係は一朝一夕にできあがるものではない、ということです。階段を一歩ずつ昇っていくように、長い時間をかけて築き上げていくものです。