「C社のTさんは本当にS社長の知り合いなんですか! Tさんのあまりにも横柄な態度に私たちは皆苦しめられているんです!」
そんな悲鳴をあげて、U部長とその部下たちが秘書課へやってきた。
自称「社長と親しい」
Tさんの言い分
C社のTさんとは、我がボスの知人の紹介により、我が社との新しい取り組みがはじまったばかりだ。だから正確には、ボスはTさんとは直接の知り合いではないのだが、どうやらTさんはボスと知り合いであると言いふらし、我が社の社員たちに対して高圧的な態度をとっているというのだ。
社員の1人が憤りを抑え切れずに口を開く。
「この前も打ち合わせのときに、突然、両手で机を激しくドンッとたたいて、『自分はS社長と親しいんだ。月に数回はゴルフを一緒にやる仲なんだ! 自分の言うことが聞けないのなら、社長に言いつけるぞ』と、ものすごい剣幕で怒鳴り散らすんです」
「私たちは会社のことを考えて、あらゆるリスクを取り除いたうえで話を進めようとしているのです。にもかかわらず『そんな必要はない、自分の言うことが聞けないのか』の一点張りで、埒が明かないんですよ」
と、U部長も加勢する。
「あまりにも乱暴な言い方で、まったく話し合いにもならないのです」
と、別の社員。
「社長のお知り合いなら、社長からTさんに、なんとか言っていただくことはできませんか」
と、またU部長。
「U部長の上司であるM本部長にはもうご相談されましたか」
と一応聞いてみる私。
「しましたよ。でもTさんはM本部長の前では猫をかぶっていて、そんな態度をオクビにも出さないんですよ」
「だから、M本部長は私たちの言うことを信じてくれないんです」
「そうですか。話はよくわかりました。社長にも確認してみますので、少し時間をください」
そう言って、とりあえずその場は引き下がってもらったものの、さあ困ったものだ。だってTさんはボスの知り合いでもないし、それにこんな揉め事にいちいちボスを引っ張り出すのもどうだろうか。私が把握している限り、Tさんとボスがゴルフをしている予定は1つもない。
どうしたものかと思いつつ、放っておくわけにもいかず、少し時間ができたときに我がボスに報告をした。
「……どうやら、こんなことが起きているようなのです」
「へえ。そういう横柄な態度は私も嫌いだな。でもそのTさんって誰? 私と知り合いでないことは君だってわかっているだろう?」
「はい。でも、もしかしたらプライベートで、Tさんとお会いになっているかもしれないと思いまして。Tさんは月に何度か社長とゴルフをしているとおっしゃっているようです」