コンサルティングの作法
「まあまあの答えだね。出会ったばかりの由紀ちゃんよりはましだね。だが、例えば赤字のフレンチレストランをどのようにしたら黒字にできるか、と聞かれたらどうだろう」
「わかりません」ヒカリは正直に答えた。
「はっきり言って、君にはコンサルタントの経験はない。仮に、仕事を依頼されたとして、失敗することはあっても、成功はしないだろう。そもそも、学校のお勉強だけでコンサルティングできると考えることがどうかしている。よく考えるのだ。君をエリートだなんて誰も思ってはいない。素人なんだよ。給料だってもらえるだけありがたいと思わなくてはね。タイガーは問題山積のクライアントを一手に引き受けているとしたら、それこそ願ったりかなったりではないか。コンサルティングの経験を積むのに、これほどふさわしい環境はない」
だが、ヒカリは首を左右に振った。
「あの人たちは、私の失敗を心待ちにしているんです」
ヒカリはうつむいたまま、いまの気持ちを口にした。
「ヒカリちゃん。そんなに深刻になることはない。失敗しなければいいだけのことだ」
「でも、先生はさっき、経験がなければ成功はしないって、おっしゃったばかりじゃないですか」
「まあまあそんなに興奮しないで。ボクが言ったことには条件があるんだ」
「何ですか、その条件は…」
「コンサルティングの作法だ。これを知っていれば、致命的な失敗はしない」