タイの巨大財閥と資本を持ち合うビッグディールの合意にこぎ着けた伊藤忠商事。商社初となる異例の資本提携に懸ける狙いは何か。
昨年の年末以降、伊藤忠商事の岡藤正広社長は、極秘で香港に足を運んでいた。商社業界でかつてない“ビッグディール”を成功させるべく、交渉を行うためだ。
そのディールとは、傘下に約200社の企業を抱え、売上高は合計で4兆円を超えるタイ最大財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループとの資本提携だった。
きっかけは、昨年11月にCPグループのタニン・チャラワノン(中国名:謝国民)会長が伊藤忠本社を訪れたことだった。CPの狙いは、世界中にネットワークを張り巡らせ、調達力や情報力に優れる日本の総合商社と深い関係を築くこと。そのため、「ビジネスパートナーとして、伊藤忠の株式を持たせてほしい」と申し出たのだ。
国内外、業種を問わず幅広く投資する商社にあって、資本提携は珍しいことではない。だが、CPは伊藤忠本体への出資を求め、株式の持ち合いを提案してきたのだ。
これを受け岡藤社長は、急きょCPのデューデリジェンス(資産の精査)を進めるとともに、全社に「CPと共に実現できる商売を全て洗い出せ」と大号令を掛けたという。
交渉の結果、CPは伊藤忠が実施する1024億円の第三者割当増資を引き受け、合計5%弱の株式を持つ実質的な筆頭株主に、一方の伊藤忠もCPのグループ企業に66億香港ドル(約870億円)で25%を出資することで合意した。