長崎県佐世保市で発生した高1女子生徒による殺人事件、理化学研究所・笹井芳樹氏の自殺と、社会に大きな衝撃を与える出来事が相次いでいる。文科省もいじめや自殺などの対策、に脳科学や心理学の研究成果を活用する方針だと報じられている。
どうして人間にはどんな逆境にもめげず楽観的に立ち向かっていける人と、すべてを悲観的に捉える人がいるのだろうか。脳科学に対する注目が高まっているいま、こうした疑問を考えるのに参考となる本が刊行された。英国オックスフォード大学で、感情神経科学センターを率いる、エレーヌ・フォックス教授が著した『Rainy Brain, Sunny Brain』である。同著は欧米5ヵ国で翻訳される話題となり、このほど日本版『脳科学は人格を変えられるか?』(文藝春秋)も出た。
「ぼくは救いがたく楽天的なんだ」
Elaine Fox
英国オックスフォード大学感情神経科学センター教授。心理学者、神経学者。楽観的、悲観的な性格の由来を中心に、感情の科学を幅広く研究。
Photo:Paul Robert Williams
かつて、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズでスターダムに駆け上った俳優、マイケル・J・フォックスを覚えているだろうか。彼は同著の主要研究対象の一人だ。
あれだけの人気者だったにもかかわらず、彼の絶頂期は短かった。わずか30歳の若さでパーキンソン病がマイケルを襲ったのだ。体が震えるなどの症状で次第に演技も困難になり、2000年には俳優引退に追い込まれた。
しかし、天国から地獄に落ちたマイケルは逆境にも決して負けなかった。常に明るさを失わず闘病を続け、少しずつ俳優活動を再開。2013年にはついに連続主演シリーズ『マイケル・J・フォックス・ショウ』で完全復帰したのだ。
「ぼくは救いがたく楽天的なんだ」とマイケルは言う。なぜ彼は苦境でも常に前向きでいられるのだろうか? “性格の違いはなぜ生まれるのか”という謎を追う、ある科学者が、マイケルのこの楽観的な性格に注目した。その人こそ英国オックスフォード大学で、感情神経科学センターを率いる、エレーヌ・フォックス教授だった。