これまで3回にわたって、確定拠出年金(以下、DC)についてお話ししてきました。前回は実践的な視点から、DCには制度上の制約があり、それを踏まえた運用を実行する必要があると説明しました。具体的にはDCでは運用商品の入れ替えに時間を要し、商品ラインナップが伝統的なものに限られるなどの状況を踏まえると、機動的に運用商品を入れ替えたりする運用はDCには馴染まず、コアとなる資産クラスに長期的で分散投資をするのが適切というアドバイスをしました。そして、分散投資をする際には、年齢はもちろん、老後におけるDCの活用方法や、確定給付年金(以下、DB)の有無も考慮に入れることが大事だとお話ししました。前回は簡単な説明にとどめましたが、今回からこの2点についてもう少し深堀りしたいと思います。まず今回は、老後におけるDC活用方法が資産形成に与える影響を見ていきます。
確定拠出「一時金」から確定拠出「年金」への変化の兆し
これまでDC加入者の多くは、定年退職になった時点で確定拠出年金の資金を一時金として引き出しており、DCの実態は年金とは名ばかりの確定拠出「一時金」制度となっていました。実際、平成24年に年金として受領された方は受給者全体の約27%しかいません。これは多くの企業で退職給付の一部しかDCとなっていない、DCでは大きな金額が貯まらず年金で分割して受け取るまでもない、といった状況を反映した結果だと考えられます。また、DC自体を65歳から厚生年金が満額もらえるまでの“つなぎ年金”と位置づけている企業もあります。今まではこのような位置づけのDCが多く、DC資金を運用しながら年金として取り崩すという発想がほとんどなかったのだと思われます。
しかし、最近では状況が変わってきました。富士電機株式会社は2014年4月から従業員の企業年金をすべてDCにシフトしていますし、ソニー株式会社は2012年4月から全社員ではありませんが新入社員の年金制度はすべてDCに変更しています。これら以外でも最近は大手企業がDCを導入する、またはDCの割合を増やすといった動きが多く見られるようになってきました。企業によって導入の仕方は様々ですが、いずれもDCにおける運用の成果が老後の生活に与える影響が大きくなっています。