事業環境が時代とともに激変する業種ほど、コンサルティングの需要も高い。その最たる例が、1990年代以降、急速な広まりを見せた移動通信業界だろう。株式会社NTTドコモで経営企画部長や副社長を歴任した辻村清行氏は、急拡大する市場の中でいかにビジネスを展開し、シェアを握っていくかを考えるうえでコンサルティング・ファームの力が不可欠だったという。ドコモの成長の陰でコンサルが果たした役割とは――。(構成:日比野恭三)
並木 辻村さんが最初にコンサルティング・ファームと仕事をしたのはいつのことですか?
辻村 1990年前後のことだったと思います。NTTの移動体通信事業の分社化を検討するにあたって、その市場が将来どれくらい伸びていくのかを分析してもらいました。戦略ではなく、あくまで市場予測ですね。これを社内で行うと、どうしても近視眼的になったり、自分たちに都合のいいデータになりがちです。そこで客観性を担保するために外部に依頼しました。
並木 そして導き出されたのが、新会社を設立するに足るマーケットがある、という結論だった、と。
辻村 そうです。コンサルティング・ファームが提示してきた数字は私たちの試算とそう遠くないものでしたが、結果的には両方とも大外れでしたね。現実の市場の方が、予測したよりも遥かに大きくなったんです。日本の移動通信のユーザーは1990年時点の約100万人から、2000年には1000万人程度になるだろう、と私たちは予想していました。それでも当時は「楽観的過ぎる」と批判されたものですが、実際はその5倍くらいにまで市場は拡大しました。
並木 1992年7月にはNTTドコモが設立され(設立当時の社名はエヌ・ティ・ティ・移動通信網株式会社)、辻村さんは同社の経営企画担当の部長に就任されます。その後はコンサルティング・ファームとどんな仕事をされてきましたか。
辻村 ドコモがスタートしてからの約8年間、私の仕事は経営戦略をつくることでした。そのために外部の知見が必要な2つの視点について、コンサルティング・ファームに情報提供をお願いしました。ひとつはクロス・インダストリー。つまりサービス業を中心に他業界の動向に関する知見です。産業横断的な視点で時代の趨勢を把握することで、ドコモの経営戦略作成の参考にしたいと考えました。
並木 なるほど。あえてモバイルとは直接的に関係のない業種を調査の対象としたということですね。
辻村 そうです。戦略というのは、少なくとも5年くらいのスパンで見なければつくることはできません。そのためには、歴史観、大局観が必要だと思います。新しい技術が生まれ、それが社会と対話しながらどう普及していくのか。複数の業種の動向を知ることで、私たちのビジネス領域にも生かせるヒントが見出せるのではないかと考えました。もうひとつの視点は、移動通信業界のいわば世界地図。グローバルな視点で、通信事業者、メーカー、関連業界の動きを収集し、その地図の中でドコモがどう振る舞うべきか戦略を描くことが狙いでした。