コンサルのアイデアとドコモの知見が
iモード誕生のきっかけに

並木 やはりカルチャーの差は大きいですよね。生え抜きじゃないと出世できない、という傾向も根強くあります。

辻村 ドコモは設立以来、人材が不足していましたので、1990年代後半頃から外部からの採用を積極化していきました。金融界から転職されて途中入社し、執行役員になった人材もいましたし、中途採用という意味では夏野剛さんもそうです。

並木 夏野さんと言えば「iモード」の生みの親のひとりとして知られています。そこで伺いますが、辻村さんにとって最も印象深いプロジェクトのひとつは、やはりiモードですか。

「コンサルとの議論が、通信事業者の強みを改めて気づかせてくれた」(辻村さん)

辻村 そうですね。iモードサービスをつくったきっかけは、コンサルタントの方たちとの議論にあったんです。ネットワークというインフラを提供するだけの「土管」としての通信業はもはや利益を生まなくなる、これからはvalue added network、つまりネットワーク自身が付加価値を生むようなものにならなくてはいけないという提言をいただきました。これは面白そうだと思って、議論を進める中で「ゲートウェイ・ビジネス」という概念が出てきました。「顧客IDのをもっていること」「ネットワーク即ち通信路をもっていること」「毎月、お客様に料金の課金をしていること」などが通信事業者の強みだということを、改めて気づかせてくれました。

並木 コンサルティング・ファームの戦略立案能力がうまく生きたのですね。

辻村 1000万人単位のIDをもっていること、それらのお客様から月々料金の支払いを受けていること等の価値を改めて考え直しました。その考え方を進めるためにゲートウェイ・ビジネス部を作り、そのチームが当時急成長していたインターネットと携帯電話を見事に融合させ、当時として画期的なiモード・サービスを世に送り出しました。

並木 ほかに印象に残るプロジェクトはありますか?

辻村 それぞれのプロジェクトに思い出がありますが、敢えてもうひとつ挙げるなら「2010年ビジョン」のプロジェクトですね。iモードが始まった1999年頃に着手したプロジェクトで、2010年にどんな社会になっているのかを多角的な視点から予測し、最終的には映像化しました。今その映像を見ると、見事に今の世の中を的確に映し出していることが分かります。もちろん映像化が目的ではなく、ドコモがこれから先の5年、10年をどういう軸で経営していくのか、その方向感をつかむためのプロジェクトでした。

並木 その中でコンサルティング・ファームはどんな役割を果たしたのでしょう?

辻村 これからの社会を象徴する言葉を「MAGIC」という5文字に集約することになったんですが、これはコンサルティング・ファームと社内のいろいろな分野の人間とが議論してたどり着いたキーワードでした。Mは“Mobile Multimedia”、Aは“Anytime,Anywhere,Anyone”、Gは“Global Mobility Support”、Iは“Integrated Wireless Solution”、Cは“Customized Personal Service”、この頭文字を取ってMAGIC。この5文字に込められた意味のほとんどは今実現していますし、iモードと並んで重要かつ印象深いプロジェクトだったと言えます。