「高橋君、そもそも財務諸表は何のために作ると思う?日本ではすべての企業が財務諸表を作らなければならないと法律で決まっている」
「?」
「財務諸表を作る目的はいくつもある。社長はじめ企業の経営幹部が、自分の会社の事業実態を数字で把握し、しっかりと経営するためにも使われる。税金を計算するための元の資料という側面もある。ただ、財務諸表を作る一番の目的は、企業の外の関係者に会社の状態を正しく伝えるためなんだ。
企業の関係者とは、出資をしてくれている株主や、お金を貸してくれている金融機関や、これから出資を考えている投資家などのことだ。その企業に関係のある、もしくは興味を持っている人たちに、企業の正しい状態を知らせるために作るんだ」
高橋は早速ノートにメモを取り始めた。
「じゃあ、企業の外の関係者は企業の何を知りたいと思ってるんだろうか。企業がどんな情報を提供すれば、企業の外の関係者は満足するんだろうか」
「?」
「いま日本には300万社の企業があると言われているが、この300万社の企業は業種が違おうが業態が違おうが、実はすべて同じことを行っている。すべての企業に共通する基本活動は3つだ」
石田はそう言って、ホワイトボードの上のほうに、右から左に向けて次のように書いた。
「すべての企業に共通する基本活動は、お金を集める、投資する、利益をあげる、の3つだ。一般のサラリーマンは通常、利益をあげるところ、つまり売上と費用と利益だけに責任を持っているので、事業全体を見ることはあまりないかもしれない。しかし、会社を興したことがある人はだれでも知っている。
事業を始めようとすれば、必ず最初にお金がいる。そのお金を、資本金か借入金という形で集めてくる。何のためにお金が必要かといえば、それは投資のためだ。製造業なら工場建設、飲食業なら店舗調達。そして、その投資した工場や店舗を活用して利益をあげるという活動をしている」
話を聞く高橋の目は真剣だった。