『週刊ダイヤモンド』9月20日号の特集は「新幹線50周年! 魅惑のJR・鉄道」。新幹線・在来線の歴史と魅力、JR各社の経営を60ページに渡り紹介しているが、ここではその特集の一部を抜粋してお送りする。新幹線や在来線の運行を支える、鉄道会社の社員。正確な運行と、人の命を預かる仕事だけに、現場では多くの難問が鉄道員たちを襲うのである。元JR某社社員の筆者がその壮絶を明かす。
「マグロだ! マグロ!」
漁船でもないのに、鉄道の現場ではマグロ、マグロと騒ぎだすことがある。マグロとは飛び込み自殺のことで、恐らく、その由来は遺体の姿からの連想だろう。このような隠語が生まれるくらい、鉄道自殺は多いのだ。
「まったく……」
飛び込み自殺が起きると、ダイヤは乱れるし、鉄道マンたちの仕事は増える。死んだ人に対してブツブツ文句を言う人もいれば、「ここが腕の見せどころだ」と、反対に元気になる人もいる。
いずれにせよ、現場は途端に活気づく。運行を管理する指令はもちろん、乗務員の運用を考える乗務員区も、車両の運用を心配する車両センターも、それぞれ慌ただしくなるのだ。
私の仕事は、数ある鉄道の仕事の中でも「車両屋」と呼ばれるものだった。亡くなった人には申し訳ないが、飛び込み自殺が起きると、自殺者よりも車両の被害状況の方が気になった。人間の体はそれなりに重量があり、列車の速度や衝突の仕方によっては、車両も無事では済まなくなる。
私の職場は、ある車両メンテナンスの現場(車庫)で、そこには、管理職を含めて大卒総合職は私一人しかいなかった。
私が最初にマグロを経験したときには、怖さと少しばかりの好奇心で気持ちが揺れたが、大卒総合職としての気負いもあり、努めて平静を装いながら、事故車両の点検要員に加わった。