ブランドは目まぐるしく変化する
かつてのブランド企業に、日本興業銀行(興銀)がありました。名門大学の中でも特別に意識の高い優秀な学生が、真剣に就活をしてチャレンジする難関企業でした。しかし、いまの20代には、「興銀」がそのような存在の会社であったことは知られていません。それどころか、その行名すら知らない学生も多いのです。私のような40代の社会人からすると衝撃的なことです。
いまの学生には商社が人気業界になっていますが、40代、50代のビジネスパーソンの方はご存じのとおり、かつては商社不要論が持ち上がったこともありました。実際、経営不振に陥った商社が合併せざるを得なくなるなど、業界内には大きな変動があり、学生に人気がなかった時期もあります。
また、コンサルティングファームがキャリアとして高いブランドを持ちはじめたのは、ここ20数年でしょう。それ以前は、ごく一部のファームを除いて一般のビジネスパーソンには社名すら知られていませんでした。いまでは東大生をはじめとする名門大学の学生が殺到するネットベンチャーも、10年前には名門大学の学生がわざわざ入ることはほとんどなく、年収も低く人気企業とはほど遠い状況でした。
このように、ブランドというものは目まぐるしく変化していくものです。ブランドを手に入れたと思っても、それがいつまでもつかは運次第という要素が強いと言えます。ブランドに翻弄されてキャリア設計を誤っては本末転倒です。
一過性のブランドよりも、自分のキャリア全体を考える
ブランドに惹かれて誤った方向にキャリアをつくってしまうケースは、新卒入社の学生に限らず、転職志望の社会人でも珍しくありません。転職の時に「ブランドのある会社に入っておけば、次の転職でもいい企業に採用してもらえるのではないか」と考えている方はご注意ください。
抜群のブランドを誇る会社、例えば、ゴールドマン・サックスに行っておけば、「次の転職でどこでも行ける」というのは少々危険な考え方です。あくまで、どういう経験を積んだ人なのかということが第一に重要なのであって、企業のブランドは二の次です。
もちろん、ブランドが無価値なわけではありません。同じコンサル出身者でも、実力が同じであれば、知名度の低いコンサルティングファーム出身者よりもマッキンゼー出身者のほうが市場では評価されます。問題なのは、ただブランドだけで就職先や転職先を決めてしまう人が多いということです。ご自身のキャリア設計のうえで、将来的に役に立つ経験が積める職種かどうかということが重要だと思います。
私との面談後、竹中さんは自身の夢を叶えるため、戦略コンサルX社に行くことを決断されました。若いうちから真剣に人生のことを考えて、邁進していこうとする姿を見ると、私もたいへんうれしくなります。