こうして4度にわたる中東戦争が起きる。でもアメリカから武器や資金の援助を受けるイスラエルの軍事力は圧倒的だ。戦うたびにアラブは蹴散らされる。イスラエルへの恨みはアメリカへの憎悪と重複する。

 故郷を奪われたパレスチナの民は、ヨルダン川西岸とガザ地区に押し込められ、あるいは国外に追い出され、まさしく(かつてのユダヤの民と同じように)流浪の民となった。最も多くのパレスチナ人が流入したのは、イスラエルと国境を接するヨルダンだ。現在では国民の半数以上がパレスチナ人で占められている。

 2万人近いパレスチナ避難民たちが暮らすスーフ難民キャンプは、アンマンから車で一時間ほどの距離にあった。設営は第3次中東戦争の翌年である1968年。それから半世紀近くが経った今では、テント暮らしをしている人など一人もいない。ぎっしりと軒を連ねるのは、日干しレンガなどで作られた普通の家だ。

「米軍も一人ひとりはいい奴なんだよ」

 玄関の扉を開ければ、男たちがぞろぞろと笑顔で中から出てくる。アルヘンリー家の五人兄弟だ。母親と長男のムーサの嫁は出てこない。これはアラブ式。2人は家の奥で料理を作っている。

 居間のカーペットの上でお茶を飲みながら、次男のマッハムートの仕事を聞いた。ヨルダンの港町であるアカバからイラクのバグダッドまで、石油をトラックで運んでいるという。運び先は米軍施設だ。これまでにトラックで地雷を2回踏んだ。いずれもトラックは大破したけれど、ラッキーなことに2回ともタンクを空にした帰り道だったので俺は今もここにいる。そう言いながらマッハムートは微笑むが、兄弟たちは笑わない。三男のファラースが、「仕事はなかなか見つからない。だから仕方がないとは思うけれど、マッハムートが米軍のために働くことに、俺たち兄弟は賛成していない」と片言の英語で言った。

「……でもな、米軍も一人ひとりはいい奴なんだよ」
 少しだけ間をおいてから、マッハムートがぼそぼそと小声で言う。
 「それはわかっている。でもそれとこれは話が別だ」
 四男のモアターズがすかさず言い返して、全員が下を向きながら押し黙った。一人ひとりはいい奴。でもそれとこれとは話が別。僕も下を向く。アウシュヴィッツ・ビルケナウ博物館で見た数枚のイラストを思いだしながら。