日本を元気にするためにもっと女性に活躍してもらおうという機運が高まっている。今後日本の労働人口が減っていく中で、女性がキャリアと家庭を両立させることは社会課題であると同時に、グローバル化と女性管理職登用の促進を推し進める日本企業にとっても喫緊の課題である。手本は外資系企業の職場環境にある。その仕組みと仕掛けを日本ケロッグ執行役員 財務管理本部長の池側千絵氏に聞いた。

ダイバーシティ重視は当たり前

「グローバル化と女性管理職登用の促進を推し進めている日本企業がまず着手すべきことは何ですか」

 外資系企業で執行役員を務めているため、そういう質問を多く受けます。それに対して私は「人種、性別を問わず、誰もが働きやすい環境を作り出すことです」と答えています。

池側千絵(いけがわ・ちえ)
日本ケロッグ 執行役員
財務管理本部長
米国公認会計士

新卒でP&Gの日本支社(現プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社)に入社。日本マクドナルドのフランチャイズ部門の財務部長、レノボ・ジャパンのCFOを経て現職。一貫して外資系企業のファイナンス部門で勤務。2児の母。GAISHIKEI LEADERSのサポートメンバーとしても活躍する。

 私はこれまで、グローバル外資系企業の日本支社数社でキャリアを積みました。それができたのも、いずれの職場も女性が働きやすい環境だったからです。外資系は厳しい環境だろうという世間のイメージはありますが、外資系企業で働く女性の中には、その環境を上手に利用して、キャリアを積んで責任あるポジションについている人がたくさんいます。

 ではなぜ、外資系企業は働きやすいのでしょうか。外資系でキャリアを形成した女性の1人として、その理由を説明したいと思います。

 冒頭で述べたように、外資系企業の職場環境は、グローバル化・女性管理職登用の促進を目指す日本企業にとって格好の手本になるはず。なぜなら、先んじて時間をかけてそうした仕組みを構築し、機能させる取り組みを蓄積してきたからです。言い換えれば、それらは日本企業に足りないもの、つまり、日本企業がこれから構築していくべき仕組みと仕掛けなのです。

 外資系企業の職場環境が優れているのは、何といっても多様性に満ちていることでしょう。社内公用語は英語、年功序列はなし、男女国籍不問で、どのポジションに誰が就くかは、当人の能力と経験で決められます。私も、上司や部下が外国人だったり、上司が年下だったり、部下が年上だったりといったことを日常的に経験してきました。女性の経営陣と働く機会も多くありました。

 私が新入社員のころは、外資系とはいえ上層部は男性ばかりでした。まだ、日本企業の女子総合職採用が始まったばかりで、当時は自分が管理職になることなどは想像もしていませんでした。

 職場環境が大きく変わったのは、日本にアジアの統括本部が置かれ、外国人が増えたころです。そのアジア統括本部に異動が決まり、仕事を引き継いだ前任者は、夫と4人の子どもを連れて日本に赴任していたフィリピン人女性でした。彼女は、「私が28歳のころにはもう3人も子どもがいたのよ」と言っていて、それを聞いて驚くと同時に、私も仕事と子育てを両立できるのかな、と思ったものです。私にとっては彼女が最初のロールモデルになりました。

 折しも社内でダイバーシティ活動が盛んになり、女性が家庭を持ちながら管理職としてステップアップしていくというキャリア形成に対して、会社が支援する体制が整い始め、私はファイナンス代表としてダイバーシティ促進活動に参画することになりました。そこでダイバーシティの定義や背景などを調べ、じっくり考える機会を得たことは、その後の私自身のキャリアを形成していく上で大変大きな収穫でした。

 当時アジアの各国のファイナンス部門の男女比を調べると、日本と韓国を除く他の国は6割以上が女性で、男性ばかりが上層部にいる日本が異例であるという事実が判明しました。

 今では、ダイバーシティを進めると業績がよくなった、多様な考えがある方がよい結論を導き出せるといった声をよく聞くようになりました。この経営課題について当時私なりに考え、行き着いたのは、「人口の半分は女性で、男女の能力は同じなのだから、女性の能力を使わなければ社会にとって大きな損」というシンプルな結論です。せっかく会社が、女性管理職を増やそうと言ってくれているのだから、いろいろ理由を考える前に流れに乗ってしまえばいいのです。結果として、会社のビジネスに貢献すればそれでいいわけですから。