アップルCEOのティム・クックがゲイであることを明らかにしたニュース。これは、米国のビジネス界の「進んだ姿」と「遅れた姿」の両方を反映していると言えるだろう。
進んだ姿というのは、クックが告白したことがおおむね好感をもって受け入れられていること。ことにフォーチュン500のトップがカミングアウトした初めてのケースとして、時代の変化が感じられる。彼は自分の行動によって、他のゲイである人々の可能性を広げることをも目論んでいた。勇気と責任感に溢れた姿に、拍手を送る人々は多い。
一方、遅れた姿というのは、クックがこれまで公にはカミングアウトできなかったことが、それを示している。クックが療養中のスティーブ・ジョブズに代わって実質的なCEOになって約5年。スポットライトを浴びる立場にいながら、隠し続けなければならなかったのである。
ホルモン注射も
保険が適用される
ニューヨークと同様、サンフランシスコはゲイ人口が多く、シリコンバレーもゲイに対してはオープンな土地柄だ。クックがゲイであるということも、アップル周辺、そしてシリコンバレーでは“公然の秘密”になっていた。それによって、彼やアップルがビジネス上の障害にぶつかったことはなかったはずだ。
米国の都市部では、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称)に対する理解は広まっている上、たとえ心底理解ができなくても、誰かがゲイであるとことさらに騒ぎ立てたりするのは、ポリティカリー・コレクトではないし、自分の無知と時代遅れを露呈することになるので、誰もそんなことはしない。
そうした環境に後押しされて、最近はゲイであることを職場で明らかにする人々も増えている。カミングアウトすることで、社員が仕事により専念できるようになる利点も取り沙汰されている。自分の性向をカモフラージュすることにエネルギーを費やさなくてもすむからだ。シリコンバレーのような進んだところでは、ゲイ社員のサークル活動やサポート組織も必ずといっていいほど設けられている。
また、先進的なところでは、ゲイ社員のパートナーの性転換手術費用やその後のホルモン治療まで社員の健康保険の扶養者としてカバーする企業まで出てきている。LGBTを含めて制度的にもダイバーシティーに努めていることは、今や企業イメージにとって大きな要素になっているからだ。