英国で考える「国家の成熟」とは

 英国出張し、11月4日にロンドンの大和日英基金で2度目の講演を行った。講演タイトルは“Beyond Nationalism: Sharing Democratic Values between Japan, South Korea, and the Overseas Chinese Diaspora”で、北東アジア地域の紛争回避のために、日本は華人社会との関係を構築すべきというものだ。基本的にこの連載の論考(第91回第67回を参照のこと)に沿った内容である。前回と同様に、講演の録音が大和のHPに掲載されたので、よかったらご覧ください。

 英国に行くと、いつも「国家の成熟」ということを考えさせられる。今回の講演後に行われた懇談会で、英国人の紳士から以下のように話しかけられた。

「日本、中国、韓国はなぜ1回戦争したくらいで、これほど険悪な関係なのか。英国や他の国で催されるレセプションやパーティで、日中韓の大使が非難合戦を繰り広げているらしいじゃないか。会を主催する国に対して失礼極まりないことだ。英国とフランスは、百年戦争も経験したし、何度も戦った。ドイツ、スペインとも戦った。勝った時もあれば、負けたこともある。欧州の大国も小国もいろんな国同士が戦争をした。それぞれの国が、さまざまな感情を持っているが、それを乗り越えるために努力している。日中韓の振る舞いは、未熟な子どもの喧嘩のようにしか見えない」

 また、消費増税をテーマにした2012年3月の講演では、質疑応答で、「英国では、キャメロン政権が付加価値税(VAT)を17.5%から20%に引き上げたが、政治問題にはならなかった。日本では税率を5%(当時)から8~10%に上げるだけで、なぜそんなに大変なのか?」と聞かれた。行政にサービスを求めるならば、その費用については応分の負担をすると考えるのが成熟した国家の国民だろう。だが日本では、そのような当たり前の考え方が国民の間になかなか定着しないことを、いつも痛感させられる。

首相は財政悪化の責任を
国民に押し付ける

 2014年7~9月期の国内総生産(GDP)の一次速報が発表された。年率換算でマイナス1.6%と、予想より悪かったことで、安倍晋三首相は来年10月に予定されている消費税率の引き上げを先送りした。そして、その是非を問うために衆議院の解散・総選挙に踏み切る考えを表明した。

 安倍首相の解散総選挙の決断には、「大義名分がない」との批判の声が上がっている。「来年10月の消費増税に賛成する政党などない。なんのための解散なのかわからない」(海江田万里民主党代表)ということだ。だが、ここで大義名分の有無を問うてもなんの意味もない。大義があろうがなかろうが、解散権は首相の専権事項なのである。首相が解散すると言ったら、もう誰も止められないのだ。野党の選挙準備が整ってない、与党に圧倒的に有利な時期の解散だと泣き言を言ったところで、それはそういうものなので仕方がない。野党が不利な条件下で選挙を戦わねばならないのは当たり前のことだ。