現在、長期海外出張中である。9月2日から13日までは、毎年恒例の「学生フィールドワーク」で英国に出張した(第43回を参照のこと)。現在は香港に滞在している。香港中文大学日本学部、スティーブン・ナギ先生のご厚意で、ゼミ生の「道場破り」に同行している。ゼミ生が学部・大学院の授業に参加してプレゼンテーションをし、現地の学生と議論を行う。香港の学生はハングリーだ。質疑応答は厳しいものになるだろう。ゼミ生には、海外の一流大学のレベルの高さを体感してもらいたい。筆者も19日に、大学院向けの特別講義を行う。
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香港は、「一国二制度」の特別行政区として、中国本土とは異なる政治・経済制度が採用されている。ロンドン・ニューヨークと並ぶ世界三大金融センターの1つであり、多くの多国籍企業がアジア太平洋・地域統括拠点を置いている。通貨は、中国銀行 (香港)に加えて、英国系の香港上海匯豊銀行 (HSBC) とスタンダードチャータード銀行(香港渣打銀行)が発券する「香港ドル」が使用されている。現在でも、香港などの華人経済が、欧州と強い結びつきを持っていることが伺える。
日本では、共産党の支配する覇権主義的な中国ばかり注目される。しかし、香港に来ると、「華人社会」の多様性というものを体感することができる。今回は、香港から「領土問題」についての「異論」を考えてみたい。
中国政府が尖閣諸島を
「核心的利益」とする意味はなにか
中国政府は、尖閣諸島を「核心的利益」だと主張する。核心的利益とは、「絶対に譲ることができない最重要の国家的利益」とされ、「台湾問題」「チベット独立運動問題」「東トルキスタン独立運動問題」「南シナ海問題」とともに尖閣諸島が含まれている。
尖閣諸島が核心的利益であるのは、基本的には「資源」があるからと考えられがちだ。実際、中国・台湾が尖閣諸島の領有権を主張し始めたのは、1968年の海底調査で東シナ海の大陸棚に大量の石油資源が埋蔵されている可能性が指摘されてからだ。だが、現在でも資源が核心的利益であるとは考え難い。莫大なエネルギー資源を必要とする中国からすれば、尖閣諸島に埋蔵される資源など微々たるものだからだ。