長年勤めた会社や組織なら勝手がわかっている。ところが、転職や異動をして新しいチームを率いて課題を成し遂げなければならないなら、多くの人が試行錯誤をするはずだ。バーニーズ ジャパン代表取締役社長の上田谷真一氏は、権限移譲を前提としたリーダーシップのスタイルが1つの参考になるという。上田谷氏自身が手本とする、英国海兵隊式の権限移譲手法について聞いた。
現代の軍隊
幸いにも、あなたに創業オーナーのような強烈なリーダーシップがあれば話は別だ。残念ながら私のような凡人がリーダーを努めなければならない場合、権限移譲を前提としたリーダーシップのスタイルは非常に参考になる。
バーニーズ ジャパン 代表取締役社長
1970年埼玉県生まれ。92年に東京大学経済学部を卒業後、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現プライスウォーターハウスクーパース・ストラテジー)を経て経営コンサルティングに従事。95年から大前研一氏が率いる大前・アンド・アソシエーツ・グループの設立に参画、パートナーに就任。その後、 黒田電気の海外事業・メーカー部門・経営企画の役員、ディズニーストアを運営するリテイルネットワークスの社長、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン社長を経て、12年4月から現職。GAISHIKEI LEADERSのサポートメンバー。
かつて未経験の業界で四苦八苦しながら自分のスタイルを模索していた時、コンサルタント時代の先輩から、英国海兵隊出身の将校たちが立ち上げたマッキニー・ロジャースを紹介された。現代の軍隊が採用するこのリーダーシップスタイルを知るにつれ、凡人で比較的リベラルな思考の自分が模索していたものを、まさか軍人が体系化していると思わなかったので驚いた。
その詳細については、『英国海兵隊に学ぶ 最強組織のつくり方』をご覧いただくとして、ここでは、“軍隊式”という、一般には上意下達・絶対服従のようなイメージがある組織において、なぜ権限移譲型のリーダーシップが最強のマネジメント手法となるかを簡潔に紹介したい。
その要点は以下のようなものだ。
・ベトナム戦争以降の戦争は正規軍同士の戦いではなく、対ゲリラ戦が中心となったため、敵の兵力や動きを正確に見積ることが難しく、参謀本部で詳細な作戦を立てて、実行部隊が忠実にそれを遂行するという手法が機能しにくくなってきた。
・また、自軍も多国籍軍となることが多く、「同じ釜の飯を食った同士」ではなく、ある目的のために緊急招集された混成チームになった。
・このような前提の中で、ミッション(遂行目標)と制約条件(使える兵器や兵力や期日)を明確にし、具体的な戦い方は現場の部隊に任せる、という手法が確立された。
ゲリラ兵がどこから出てくるか分からない中で、混成チームがそれを壊滅するためには、作戦本部の指令を待つのではなく、同じミッションを共有した自律的な兵士が臨機応変に行動することが、結果として、生き残って任務を遂行できる確率が高いということだ。
私はこのストーリーが腹に落ち、自分はこのスタイルを磨いていこうと決心した。いったい「権限移譲型リーダーシップ」とはいかなるものなのだろうか。