東大、京大が「統計」を入試問題から外した?

西内 センター試験の状況は厳しいですね。では、東大をはじめとした個別の国立大学の入試では、統計は出題されているのですか?

竹村 現時点でわかっていることを言うと、「数学B」からは「統計」が出題されない方針です。文部科学省は今回の高校教科書の改訂で(2015年度〜)、「数学I」における「統計」の必履修化を決め、さらに「数学B」における「 統計 、ベクトル、数列」の3つを選定しました。なかでも「統計」は「数学B」の最初の項目として最重要視されています。それは今後の日本の国際競争力を再興していくためにも重要な決定であり、文部科学省は妥当な判断を下したと考えます。
 ところが、ここにも思わぬ壁が立ちはだかったのです。東京大学では2011年11月に、また京都大学では翌12月に「数学Bの入試にはベクトル、数列を出題する」と宣言し、事実上、統計を入試科目から除外してしまったことです。

西内 「数学と統計学は違う」という溝が、こんな形で出てきましたか。驚きですね。

竹村 「数学I」の「統計」は必ず履修しなければならない項目ですから、さすがに出題されます。けれども、「数学B」の国立大学の個別試験では「統計」は外されています。

――いま統計学会のホームページを見ているのですが、たしかに出ていますね。国立大学協会の会長宛に「数学の出題範囲に関する要望書」という文書が7つの学会長の連名で提出されています。竹村先生のお名前もあります。「統計を出題せよ」という強い要望書ではなく、「数学Bは、統計、ベクトル、数列の3つの範囲から出題し、2項目を選択解答する」という、実にリーズナブルな要望ですね。

西内 数学科で統計の問題を作るのが難しいなら、統計学者が入試問題を作れば済むことではないでしょうか?

竹村 いや、数学の問題は数学科の先生が作る、というシステムになっています。統計の問題を作ると、答えが一義に定まらないから採点しにくい面があり、たしかに数学者にとっては面倒な話ですね。それでも、東大の数学の場合はそもそも記述式ですから、解答の論理を追っていけば採点できると私は思うのですが、数学の先生方はそうは考えない。
 大学でさえこのような状況ですから、中学、高校になると、統計を教えることについては先生方が不安になる。「こう考えると、こういう解釈もありうるのでは?」「こんな変数を考えると、この相関は見かけだけかもしれない……」と、いろいろな解釈が出てくるようだと、授業で教える側は困るでしょうね。本当は、そのような思考ができることこそ、生きていくうえで大事なんですけど。

西内 そのような現状をお聞きすればするほど、「統計検定」をスタートさせたのは大英断だったと感じます。この統計検定は、そもそもどういう経緯で始まったのですか。

竹村 日本には統計学部はありませんし、中学、高校でも統計がほとんど教えられなかった時期もあり、統計受難の状況が続いています。「統計検定」はそのような状況を改善する一策として、学会の執行部が中心になって立ち上げたものです。といっても、日本のさまざまな大学において、どのような先生が、どのような内容の統計を教えているのか、私たちもわかりません。そこで、まずは統計で必要なベースラインを確保しようと始めてみたところもあります。もう一つ、日本人は資格が大好きだから、という狙いもありましたが。
 昨年、西内さんの『統計学が最強の学問である』がベストセラーになってくれたおかげで、統計検定も盛り上がってきています。

西内 ありがとうございます。「統計検定」の問題自体は、ライセンス料さえ払えば、どの出版社も問題を使って出版してよい、と聞いていますよ。ダイヤモンド社さんでもいかがですか、出版を考えてみては。

竹村 ライセンス料は、そんなに高くないです。統計学会で作った公式本もありますが、いろいろな出版社で「統計検定の対策本」を作っていただけるなら、学会としては大歓迎です。

――なるほど、それはぜひ検討させていただきます。ところで、『統計学が最強の学問である』という本は、統計学者の皆さんにどのように受け止められたのでしょうか?

竹村 びっくりしましたね。まず、ネーミングに驚いた。「統計検定」の集まりに、誰かがこの本を持って来てみんなで盛り上がりましたよ(笑)。多くの統計学者はポジティブに評価していると思いますよ。37万部ですか、驚きですね。

西内 ありがとうございます。今回の『実践編』では、数式のページも高校数学のレベルで頑張って書きました。竹村先生の『現代数理統計学』や、清水良一先生の『中心極限定理』を読む土台ができることをめざしています。