インターネット通販で独走する米アマゾンが持っている“もう一つの顔”のクラウド事業。世界で100万社以上が利用し、今なお倍々ゲームで規模拡大している巨大なデータセンター群は、これまで想像できなかったような高度なITインフラとしてその存在感を増し続けている。

Re:inventの基調講演で新サービスについて熱弁を振るうアマゾンのヴァーナー・ボーガスCTO

 クリック一つで、今日から使えるスーパーコンピュータがあった──。

 11月12日、米国ラスベガスにある豪華ホテルで開かれたイベント会場。ホンダのシステム基盤部に所属する多田歩美さんは壇上に上がると、約2年前から静かに取り組んできた挑戦を語った。

 2012年の夏、ホンダの研究所(埼玉県)の研究者らは頭を抱えていた。未来のクルマを造るためには、高度な化学材料のデータ分析が欠かせない。しかし、他部門と譲り合って使う所内のスーパーコンピュータを“行列待ち”していたのでは、とても間に合わない課題を抱えていたのだ。

「なんとしても3カ月で研究結果を出したい」

 焦りは募れど、新たに購入するには高額な出費が伴うために社内申請に時間がかかる。大学や公的機関から借りる方法も模索したが、実験内容の開示義務などがネックになるケースもあり、産業利用のハードルは高かった。

 行き着いたのが、世界首位の座を占めている米アマゾンのクラウドサービス「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」だった。

 ユーザーは本や雑貨をインターネット通販で買うような簡単さで、アマゾンが世界28カ所以上に築き上げたデータセンター群のサーバ(高性能コンピュータ)を、ワンクリックで使える。