民事再生の直後、
涙を流して
激励してくれた

編集部 ところで、本書の中では、杉本さんの会社が民事再生した直後、田中さんが「何も助けてあげられなくて、ごめん」と涙を流すシーンが印象的でした。

杉本 グリーの社員のみなさんもびっくりするかも知れないですけど、本当に泣いてくれたんですよ。

田中 いや、僕が涙もろいことは社員は知ってます。数年前にデータセンター側のトラブルでサービスが停止した時にお客様に迷惑をおかけしたのが悔しくて泣いてしまったことがあるんで。あまりいいことじゃないですけど、涙が出てしまうのはしょうがない。

杉本 あの時、本当にうれしかったんです。民事再生したばかりで前途は真っ暗だったけど、極限状態の中で涙まで流して「残念だったね」と苦しさを分かち合ってくれる友人の存在に感謝しました。

田中 会社が消滅してしまうというリスクは、実はどんな経営者も背負っているはずでしょ。でも当時の僕には、自分の会社が倒産するということの大変さがまったくわかっていなかったことに衝撃を受けたんですよ。もっと早く杉本さんの苦しさに気付いて、何かできることがあったんじゃないだろうか。その苦しさに気付けなかったのは、同じ経営者として至らないところがあったと痛感した。

杉本 当時、グリーは上場して飛ぶ鳥を落とす勢いでした。田中さんが電話をくれて「遊びにおいでよ」って誘ってくれたんですが、僕としては会社を潰して自己破産して、こんなヤツが会社を訪ねるのは迷惑じゃないかと思いながら訪ねたんです。それが逆に激励してくれて。自分の人生の中でも、一生忘れられない時間になりました。

起業家対談シリーズ第5回 田中良和<br />友の苦しみになぜ気づけなかったのか、と涙が流れた