日本のビジネス界に全体最適化のTOC理論を知らしめたベストセラー『ザ・ゴール』シリーズに、5年ぶりの最新刊が登場。監訳者である岸良裕司氏が、『ザ・チョイス』の読みどころ、著者であるゴールドラット博士の人間的魅力を語った。

ザ・チョイス―複雑さに惑わされるな!
『ザ・チョイス―複雑さに惑わされるな!』エリヤフ・ゴールドラット[著]岸良裕司[監訳]三本木亮[訳]定価1680円(税込)

 昨年9月末、ゴールドラット博士から、一通のメッセージが届いた。

 「いま、何をやっていると思う? 本を書きはじめたんだ」

 久々の新作でもあり、読者の一人として楽しみにしていた私は、はやる気持ちを抑えきれず、どんな本を書いているのか尋ねたが、その時はまだ本のアイデアをまとめるためにツリーを書いている段階のようだった。

 数週間後、博士は経団連で開催されたセミナーのために来日。子供のような無邪気な笑顔で、「原稿に目を通してくれないか」と私に声をかけてきた。何度も書き直しを重ねたらしく、すでに20版を超えていた。

 ざっと目を通すと、驚いたことに彼の日常生活そのものが語られ、そして、博士と愛娘のエフラットの実際の会話をベースにして、ストーリーが構成されていた。その冒頭でも書かれているが、自分の原稿を誰かに声に出して読んでもらい、第三者の言葉から推敲を重ねていくのが、博士のスタイルだ。

日本で出合った「和」

 渡された原稿は、「Harmony(調和)」というタイトルの第七章だった。博士は、日本の数々の目覚ましいTOCの成功事例に触発されたのだと率直に語る。その中でも特に注目したのは、成功事例の実績そのものよりも、成功した人たちが一様に口にする共通した次のような感想であった。「人間関係がよくなった」「仕事が楽しくなった」「やりがい・張り合いが増した」そして「人が成長した」というものだ。

 これらに共通し、自然に関係者の中から出てきた言葉、それは、古くから伝えられてきた日本の伝統的な価値観、「和」であった。日本で出合った「和」という言葉に啓発され、博士は自ら編み出したTOC(制約理論)についての自分の理解がいかに浅かったかを悟ったのだとまで言う。こうして、書き上げられたのが第七章「調和」だったのだ。

 日本滞在中も、精力的に企業や行政の現場の方々と議論を重ねた。その姿は『ザ・ゴール』に登場するジョナというよりも、無邪気な子供のような印象さえあった。